伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

事件の詳細2. 2015年3月24日〜4月2日 (先行公開)

こんにちは。本シリーズでは、伊藤さんの立場から、裁判に提出された資料や報道、日米両政府の報道発表資料、関係者のSNS投稿などを突き合わせ、本事件の経緯について考察します。本エントリでは、事件前に両者がメールのやりとりを始めた2015年3月25日から1日だけ遡った3月24日から記述を始め、「事件」が発生した2015年4月3日の前日、4月2日までを追いかけます。

 

3月24日(火)

山口氏はこのとき、文春記事の発売を前にして、米国国務省の言質を得るべく、当時の山田重夫駐米公使とメールのやりとりをしていた。

公使:東京で官房長官記者会見で質問が出るなど、報道が出た段階で国務省に根回しするようにします。

山口:産経記者が明日(引用者注:日本時間3月26日)の朝刊で展開してから、午前の官房長官会見で質問する事になりました。菅さんは、「20世紀に行われた人権侵害は、いつの時代のどの地域で起きたものでも、しっかり検証していくべきである」という昨年の安倍総理の国連演説に沿ったラインで答弁します。明日木曜日の国務省会見で聞いても大丈夫ですか?(強調は引用者による)

 

安倍総理を援護したくて虚報発信! 「韓国軍に慰安婦」記事 山口敬之と公使のメール公開【検証4】 | デイリー新潮

 山口氏が、翌日の産経新聞朝刊の内容や、産経新聞記者の質問、それを受けた官房長官答弁までコントロールしているかのような内容になっており、山口氏と政権中枢の親密さが感じられる。

 

3月25日(水) 伊藤さんから山口さんにメールを送信

  

伊藤氏、最後に連絡を取ってから半年ぶりに、山口氏にメールを送った。

 

凡例

(S→Y)伊藤さんから山口さんへのメール。

(Y→S)山口さんから伊藤さんへのメール。

*当エントリではメールは要約したものを表記しています。

 

(S→Y)ワシントン支局のインターンはまだ募集していますか。東京にお戻りの際はお会いできたら嬉しいです。

(Y→S)インターンなら即採用。プロデューサーも検討します。

(S→Y)プロデューサーのポジションに応募したいです。

(Y→S)履歴書を送ってください。プロデューサーの場合は本社の決裁が必要でかなりの時間がかかります。

 

→「東京にお戻りの際はお会いできたら嬉しいです」とメールに記載している(伊藤氏の著書では省略されている)が、山口氏がこんなに早く「東京にお戻り」になるとは予想していなかっただろう。

 

なお、山口氏側は伊藤氏からのメールについて、以下のように説明している。

「(前略)現在絶賛就活中なのですが、もしも現在(TBSワシントン支局で)空いているポジションなどがあったら教えていただきたいです。宜しくお願いします! 東京にお戻りの際はぜひお会い出来たらうれしいです」

「早速のご返信ありがとうございます! 本気です! プロデューサーのポジションに応募させていただきたいです。ぜひとも検討していただけませんでしょうか? よろしくお願いします!」

「どんな形であれ、ジャーナリズムのお仕事に携われるなら雇用形態は問いません。どうぞよろしくお願いします!」
 
また、!マークのたくさんついたメールが何度も送られてきました。あなたの強い要望がきっかけとなって、問題となった恵比寿での会食がセットされました。

あなたが元来、エモーショナルなメールを打つタイプだとしても、一連のメールを見ればワシントンで仕事をしたいという熱情は並大抵ではなかったことは明らかですね。

【独占手記】私を訴えた伊藤詩織さんへ「後編」|山口敬之 | Hanadaプラス

 

メールに全文を読みたいかたは↓こちらを。

メール(全公開) | JUSTICE FOR NY

伊藤さんが著書で省略した部分はそのように明示されている。山口さんが省略した部分と見比べながら読んでみるのもよいだろう。 

 

3月26日(木)週刊文春発売

 山口氏執筆「ベトナム戦争・韓国軍慰安所」記事掲載の週刊文春が発売。24日の打ち合わせ通り、午前の官房長官会見で産経新聞記者が質問を行っている。

 

www.kantei.go.jp

 

当該質問は14:20頃から。以下、筆者による書き起こし。

(記者)産経新聞のイシダ(ヨシダ?)です。慰安婦問題についてお伺いします。一部報道で、ベトナム戦争当時、韓国軍がベトナム国内で慰安所を経営していたという内容がありました。韓国政府は日本政府に対して慰安婦問題で繰り返し批判をしていますが、報道が事実だとすると、韓国側は慰安婦問題で加害者という側面が出てきますが、長官の受け止めのほうをお願いします。

(菅官房長官)報道については承知しています。世界の歴史の中で20世紀は様々なところで多くの戦争があって、その中で女性の人権が侵害されてきているということであります

申し上げてますように、21世紀こそ、人権侵害のない世紀にしなければならない。そういう中で、我が国は戦後一貫して、平和国家として、国際社会の平和と繁栄に貢献している訳でありますけれども、国際社会と協力しながら、引き続き全力を尽くしていきたいと思っています。(強調は引用者による)

菅長官の答弁は、山口氏の想定ほど踏み込んだものにはなっていないようだ。

文春発売当日26日午後、山口氏は国務省の広報官会見用に4つの質問を並べ、公使の指導を仰ぐ。最後の【Q4】には、〈朴大統領は昨年の国連総会で「戦時の女性に対する性暴力は、時代や地域を問わず、明らかに人権と人道主義に反する行為だ」と演説したが、韓国政府の自主的な調査を期待するか?〉とある。

公使:これで良いと思います。Q4への答え、楽しみですね。

山口:頑張ります。大変お手数とご迷惑をおかけしている山田公使に喜んでいただける答弁が引き出せたら嬉しいのですが…

その直後に国務省で行なわれた会見。サウジアラビアによるイエメン侵攻について各国記者が尋ねる中、支局長ではないTBSの人間が割って入った。

TBS:(文春)記事が言及しているベトナム戦争における韓国軍の慰安所に関する公文書は読んだか?

広報官:公文書があったことは承知しているが、まだきちんと読んでいないし、検証もしていない。

 TBS記者は山田公使期待の【Q4】を重ねたものの、広報官は「私の立場から何も言うことはない。他のテーマの質問は?」と倦(う)むように話題を打ち切る。(強調は引用者による)

安倍総理を援護したくて虚報発信! 「韓国軍に慰安婦」記事 山口敬之と公使のメール公開【検証4】 | デイリー新潮

↑これは新潮による要約だが、原文はこちら。

 

2009-2017.state.gov

Q1.

QUESTION:  Thanks.  I’ve been asked to ask a few questions about this report out of Japan which is based on U.S. archival documents that show Korean forces in Vietnam during the war operated a number of brothels for their troops.  I was wondering if you’ve seen this report. 

Mr.RATHKE: I’m familiar – I am aware that there is such a report.  I can’t say that I’ve studied it or read it in its entirety.  But what’s your question?

 

以下、筆者による拙い意訳。

TBS記者.ベトナム戦争において韓国軍が、兵隊のための売春宿を運営していたという、米国の公文書に基づく日本からのレポートがある。このレポートについてご存じですか。

広報官.そのようなレポートがあるのは知っているが、まだ詳しく精査していない。あなたの質問は何?

 

 

Q2.

QUESTION:  I guess – well, first, I was wondering if you can confirm the validity of the documents that the report is based on.

Mr.RATHKE: Well, I’m not in a position to confirm the documents.  I have not reviewed the documents.  I don’t know whether they – where they stem from or they – do they purport to be State Department documents?

QUESTION:  They are letters that were written from U.S. Forces Command during the Vietnam War and they were from the National Archives.

Mr.RATHKE: Well, then I think it would not be this building that’s in a position to speak to those documents.

TBS記者.このレポートが依拠した文書の正確性を確認できますか。

広報官.自分はその立場にないし、その文書を確認していない。その文書というのは?

TBS記者.米軍がベトナム戦争中に作成したもので、国立公文書館で発見されたものです。

広報官.それらの文書について、国務省は語る立場にないと思う。

 

Q3

QUESTION:  Okay.  In terms of the issue that the report talks about, do you see it as an instance of human trafficking?  Do you see a need to investigate it at all?

 

Mr.RATHKE: Well, we’re aware of the article.  We don’t have any specific comment on the article.  I think our policy on the trafficking of women for sexual purposes remains well-known, and so I don’t have anything to add to that.

TBS記者.わかりました。このレポートは、人身売買の実例と見なすことができるでしょうか。詳細を調査する必要は?

広報官.我々はその記事について承知しているが、特段のコメントはない。性的目的での女性の人身売買についての米国の態度は既によく知られておると思うし、特に付け加えることはない。

 

Q4

QUESTION:  Given that this is an issue that President Park has focused on, including mentioning it prominently in her UNGA address last year, would you like to see an address by the Korean – would you like to see it addressed by the Korean Government?

Mr.RATHKE: I don’t have anything further to add on this at this time.  You wanted to go back to Yemen?(強調は引用者による)

TBS記者.朴槿恵大統領が昨年の国連総会演説で顕著に言及するなどこの問題に注目してきたことを考えると、韓国政府からの説明が必要だと思われないでしょうか。

広報官.現時点でこの問題について付け加えることはない。イエメンの話に戻りますか。

 

 

以上のように、広報官からは前向きな回答を引き出せず、新潮が「倦(う)むように話題を打ち切る。」と表現したのも宜なるかなという感じだ。なお、これを受けた山田公使と山口氏のやりとりは以下のとおり。

公使:先方の応答、ちょっと迫力が弱いですが、記事を確認するとともに、少なくとも本件と慰安婦問題が同じ種類の問題であると位置づけていることは、意味がありますね。

山口:会見が三番旗(略)だったので力弱いですが、少しは喋ってくれました。

 

それは安倍外交を援護したかったが故の共同作業が成就せず意気消沈していた、ひとつの証明である。

 

安倍総理を援護したくて虚報発信! 「韓国軍に慰安婦」記事 山口敬之と公使のメール公開【検証4】 | デイリー新潮

 

 

3月27日(金)山口氏の東京召喚が決定・通知された?

 山口氏、FBに「どれだけ厳しい状況におかれても、自分を信じていれば心は晴れる」という趣旨の投稿。

 www.facebook.com

 

「どれだけ厳しい状況」という表現から、文春発売を受けて急遽、東京への召喚が決まったことが推測される。新潮も同様の見解のようだ。

 

ちょうどその頃、山口氏に対して、TBS本社からの“召還命令”が届いていたとされる。それは、本社が認めなかったものを他媒体で紹介したことについて東京側は事情聴取を行いたかったからである。

 

3月26日発売の文春記事がなければ召還も、望まぬ行為に巻き込まれることもなかった。公文書捏造という“罪”が背徳行為を誘発したということになる。

安倍総理を援護したくて虚報発信! 「韓国軍に慰安婦」記事 山口敬之と公使のメール公開【検証4】 | デイリー新潮

 

 

3月28日(土)山口氏、帰国予定があることを伊藤さんに伝達。

(Y→S)「履歴書ありがとう。ヤボ用で一時帰国することになったけど来週は東京にいますか」

(S→Y)「来週東京にいます。お時間がありましたら是非お会いしたいです」

 

急遽として厳しい状況に置かれた山口氏だが、気を取り直して伊藤氏との面会をセッティングしている。

 

3月29日(日)山口氏、ホテルを予約。

(Y→S)最大の関門はVISAだね。支局スタッフとして雇用するために会社で支援した実績はあるようです。来週後半、空いている夜はある?」(14:26)

 山口氏、 事件舞台となったホテルを一休.comで予約(4月1日から3泊4日)(14:46)

(S→Y)「空いています。山口さんの都合のいいお日にちを教えてください」

 

帰国が決まった段階ではなく、伊藤氏との会食の日時が決まりそうになった段階でホテルを予約した山口氏。 なお、当該ホテルは3泊4日で97,038円(控訴答弁書より)と高額で、わけもなく一人で宿泊するのは不自然ではある。外資なので世界のニュースチェンネルなどを見られるメリットはあるかもしれないが。なお、山口氏が高級ホテルを予約したことから察するに、彼は伊藤氏も「その気」だと思っていた、あるいはそう願っていたのではないだろうかというのが筆者の見立てである。仮に、伊藤さんが意識のない状態になることを事前に見込んでいたのなら、わざわざ高級ホテルをとる必然性がないからだ。

 

 

3月30日(月)山口氏、帰国?

(Y→S)「金曜日空けといてもらえますか」

(S→Y)「4月3日、空けておきます」

 

山口氏は裁判で以下のように説明している。

顧問弁護士からの調査を受けるために3月30日に一時帰国した。

 

元TBS記者の山口さん「なだめるような気持ちで性行為に応じた」伊藤詩織さんの主張に反論 - 弁護士ドットコム

 

成田(東京) - ダレス(ワシントンDC) 2015年03月時刻表 | FlyTeam(フライチーム)

当時の成田ーワシントン直行便の時刻表。おそらく、現地時間29日にワシントンを出発、日本時間の30日夕方に成田に到着したものと思われる。

 

ちなみに、山口氏は本人尋問で以下のように述べている。

原告代理人:では、3月30日、それから31日、このシェラトン都ホテル東京に宿泊する前ですが、どちらのホテルにお泊まりでしたか。

 

被告:ちょっと覚えてないですね。その一時帰国を命ぜられている間、ずっと同じホテルが予約できなかったので2つに分けたんですけども、最初のホテルがどこだったかちょっと覚えてないです。 

 

 

3月31日(火)TBSで山口氏に対する聴取が開始。

 甲46号証・TBS法務・コンプライアンス室長からの回答によれば、この日から聴取が開始されている。

 

4月1日(水)山口氏、文春を読むよう伊藤さんに指示

(Y→S)金曜日、7時くらいからになると思います。発売中の週刊文春を読んでおいてね。(16:54)

 

このように指示された伊藤さんだが、結局文春を読むことないまま会食に臨んだようだ。当該号は大人気だったそうだから、既に書店やコンビニでは売り切れだったのだろうか。いずれにしても、伊藤さんがTBSワシントン支局への就職を極めて強く望んでいたとは推測できないエピソードではある。

 

一時帰国前に伊藤さんに「週刊文春を読んでおいて」とメールしているのは、伊藤さんに対し「一時帰国したのはこの記事について調査するため」と示したもの。伊藤さんと会う4月3日段階で解任の可能性があるなら「読んでおいて」というはずがない。

元TBS記者の山口さん「なだめるような気持ちで性行為に応じた」伊藤詩織さんの主張に反論 - 弁護士ドットコム

 

なお、山口氏は「文春を読んでおいてね」というメールから、ここまで読み取ることを要求していたようだが、若干無理ゲー感がある。

 

最後になるが、山口氏の文春記事については

nou-yunyun.hatenablog.com

↑ここで詳しく述べられているので参照されたい。

 

 

本エントリはここまで。次回はいよいよ事件当日について見ていきたい。