伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

アフターピル処方医院のカルテ記載は正確なのか

伊藤さんと山口さんの民事訴訟で、伊藤さん側にとってアキレス腱となっているのが、事件直後に受診した産婦人科のカルテ記載である。

 

 

カルテには「性行為は午前2時〜3時、コンドームが破れた」という旨の記載があり、これは性行為が5時に行われたという伊藤さんの主張と異なるため被告側から「伊藤さんは主張を変遷させている」と反論されているところだ。

 

 

これについては、地裁判決の議論が秀逸なのでまずそれを紹介する。

 

 

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これだけで終わっても別に構わないのだが、いくつかの補足を行っておく。

 

伊藤さん側は「自分は産婦人科でそのような説明はしていない、明け方と答えただけだ」と裁判で主張している。性行為の時間や避妊の方法といった情報は、無論医学的必要性があって質問されるものだが、レイプ直後の状況でなくても、気恥ずかしさから患者が正直に申告するとは限らない。また、よく話題になる「72時間」をまたぐかどうかが避妊薬の効果を大きく左右することもなく、避妊効果のためにはとにかく早期に内服することが重要だ。処方する医師の側も根堀り葉掘り質問しなくても不思議はない。

 

 

しかも、伊藤さんが受診したのは土曜日の、おそらくは午後のことだ。当該婦人科医院は土曜日には午前中に検診を行っているだけであり、内科や婦人科の診療は平日のみ、しかも完全予約制のようだ(2020年9月HPで確認。事件当時どうだったかは不詳)。医院側からすると、「診療時間後にいきなり押しかけてきた困った人」と映っても仕方ない。アフターピルの処方さえしっかり行えば医療の内容的には大きな問題はないと思うが、このような事情からおざなりな記載が行われてしまったのかもしれない。伊藤さんからしたら、土曜日午後に受診の機会を失ってしまったら、次のチャンスは月曜午前になってしまう可能性があるから必死だったろう。

 

 

 

以下、若干脱線するが重要なことなので触れておく。伊藤さんは「ここで救われる人がいることを考えてチェックシートを作り、モーニングアフターピルを書き込んでもらうようにしたらどうだろうか」と著書に書いている。

 

その手のものは、各医療機関が自作するよりも、メーカー側が資材として配布する方が普及が早い。というわけでメーカーのサイトを調べてみたところ、定期的に内服するタイプの女性ホルモン製剤については、患者向けの「チェックリスト」が準備されている。

 

www.aska-pharma.co.jp

 

 

しかし、緊急避妊用の女性ホルモン製剤については、服用方法やその後の体に起こる変化などについて、英語・中文・ハングル・ポルトガル語のパンフレットは準備されていたが、伊藤さんが指摘したようなチェックシートはみあたらなかった。

 

www.aska-pharma.co.jp

 

私見だが、緊急避妊ピルを求めた方へのチェックシートを準備するとしたら、定期的な女性ホルモン製剤内服を促す内容のものを作成し、その中に性行為に同意があったかどうかを尋ねる項目も入れ込むような形がよいのではないかと考える。緊急避妊薬については、早ければ来年にも処方せん無しでの薬局販売を検討しているとのことだ。この制度変更により、現在より販売量が大幅に増加することは間違いないし、それなりの単価が(1万円/錠程度)する薬剤なのだから、仕組みを準備するにあたり是非そのような仕掛けを入れ込んで欲しい。

 

 参考

www.huffingtonpost.jp

 

 

 

 

閑話休題。地裁も、その他の事情(山口氏の主張に不合理な変遷が多い、午前2時に伊藤さんが完全に酔いから覚醒していたとは思われない、伊藤氏がホテル客室内で「私はなぜここに居るのでしょう」という発言をした)や、コンドーム使用については明らかな誤りがあることから、午前2-3時とのカルテ記載の正確性を疑う判断を行ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

伊藤さんが地裁に提出した「来院証明書」は2017年6月17日に作成されており、これは著書ブラックボックス執筆開始時期と重なっている。伊藤さんの著書では、当該婦人科医院では十分な対応がなされなかったという主張になっており、本書を読んだ私も「いくらなんでもなぜここまで婦人科を悪く描くのだろう?」と感想を持ったのは事実だ。だが、来院証明書を取得する際に同時にカルテ開示も行い内容を知っているのだとしたら、それも納得できる。

 

「いつ失敗されちゃったの?」そうたんたんと言い放ち、画面から顔も上げずに処方せんを打ち込む姿は、とりつく島もなかった。

「どうしましたか」と目を合わせて一言聞いてもらえたら、その後の展開は全くかわっていたかもしれない。(著書ブラックボックスより一部引用)

 

 

 

また、2017年6月7日のAERAを読んでみると

詩織さんが明かしたセカンドレイプ「性被害者が声を上げられる社会に」 (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

医師の診察が十分ではなかったという主張はこのときから行われている。なお、「当時住んでいたアパートに帰ったのが早朝だったので、婦人科が開く時間まで待った」という説明は著書ブラックボックスとは異なるが、これはこの時点では公表について家族からの了承が得られていなかったからだろう。

 

 

 

 

伊藤さんがカルテそのものでなく来院証明書を裁判に提出した点については、交通事故裁判などでもカルテを丸ごと提出するより診断書を提出するのは普通のことだし、本件では時間の差異があって論点が拡散することをさけたいという思いもあるだろうから、なおさらだ。

 

 

 

 

 

ただし山口氏側としては、「自分が申告する時間とカルテの時間が一致しているのだから、自分の主張が正しいのだ」「伊藤さんはカルテを隠蔽した」と言いたくなるだろう。

 

 

 

 

さて、なぜ山口氏の主張と、カルテ記載の時間が一致するのだろうか。

1.偶然

2.山口さんは事前にカルテ内容を知っていた

のいずれかだろう。私は2だと思っているが、論じるのはまた別の機会としたい。当エントリでは、カルテ記載が正確ではなかった可能性について論じるにとどめることにする。