怪しげな誰が書いたか分からない文書で「それが信用できるかどうかは別として」証拠として出せると言われても…嘘と変わらないでしょう pic.twitter.com/MMTHKTp4wm
— まうり塩 (@anaiscalico) 2020年10月18日
このサイトを訪れた方の中には、上記のような情報に触れたことのある方もいるかもしれない。伊藤さん側の弁護士が、不誠実な態度で訴訟に臨んでいると批判している内容だ。
発言そのものは事実だ。この発言をしたのは角田由紀子弁護士。伊藤詩織さんの弁護団のお一人である。経歴は申し訳ないが↓のウィキペディアから参照してほしい。「一般社団法人希望のたね基金」という、従軍慰安婦関係の団体の顧問を務めている関係で、平素からゆえ無きバッシングを浴びているのだが、残念なことに本件でも攻撃の対象となってしまった。本エントリでは、当該発言がどのように行われたものなのか、実際に裁判で「誰が書いたかわからない文書」が証拠として用いられているのか、を見ていく。
2019年8月1日、裁判報告集会で角田弁護士が発言
facebookで行われた告知文には、
「性暴力に関わる刑事告訴と民事訴訟のそれぞれの持つ意味など、この裁判を理解し支援していくための基礎的な知識についても、角田由紀子弁護士にじっくりとお話いただく予定です。刑事訴訟であまりにも酷い判決が続く中、刑事では明らかにできなかった詩織さんの事件を民事で改めて問う意義について、皆さんと共に認識を深める機会にしたいと思います。」
とあり、角田弁護士は刑事事件と民事事件の違いについて一般的な話をしたようだ。本件では、刑事事件では不起訴という結果が出た後だから、支援者が民事訴訟で勝訴できるのか不安を抱くのは当然だ。主催者としては、弁護士が明るい見解を語ることで、このような不安を払拭するという意図もあったのだろう。当該部分での角田弁護士の論旨としては「民事訴訟では刑事訴訟より提出できる証拠に求められるハードルが下がることもあり、色々と主張することができた」というところだったのだろうが、以下のように歪曲されてしまった。
2019年8月24日、小川榮太郎氏が取り上げる
今や、世界で一番この問題に詳しくなったと豪語する小川榮太郞先生。動画の25分ころから。
(小川榮太郞氏)さて、このような状況の中、一つ重要なことをここでご紹介しておきたい。伊藤さんの民事訴訟を支える会というものが開かれている。こんなこと言ってるんです。弁護士がですよ。
(角田弁護士)刑事事件でやったらこれはなかなか勝ち目がないというような事件たくさんあるわけですね。本件もそうだとおもうんですけども、そういう場合には、じゃあ法的な救済がゼロかというとそうではなくて、もうちょっと緩やかな民事裁判で損害賠償を払わせるという形で責任追及することはできるという、こういう関係になっております。
(小川榮太郞氏)こういうふうに言っている。しかもこう続けている。
(角田弁護士)なんだか怪しげな文書であってもですね、民事事件では証拠になりうるということなんです。誰が作ったかわからないという、作成者の名前がはっきりしない文書であっても、それがどれだけ信用できるかどうは別として、証拠として持ってきてはいけないというふうにはなっていないということなんです。
(小川榮太郞氏)いや、まあそりゃそうかもしれません。しかし今、民事訴訟で山口さんを訴えている中身は強姦、強姦致傷、暴行です。それを、本当に被害を受けたのに訴える手段がないという真摯な叫びであれば、私も真摯に受け止めましょう。しかしこの言い様は何ですか。怪しげな文書でも、刑事じゃ通用しないけど民事じゃとりあえず裁判が成立すると。これは裁判を使った極悪非道じゃありませんか。他になんと呼べばいいんですかこんなの。裁判を使って人権を蹂躙すると最初から宣言しているのとどう違うのでしょうか。
(小川榮太郞氏)本当に被害を受けた人が、どうやって救済されたいかと模索して、性被害の深刻な実態を本気で告発し、社会で無くしていこうという真摯な姿勢なんてどこにも全く見られないじゃありませんか。ファクトが無くてもいいと。怪しげな文書でも、訴えられる。
動画では角田弁護士の発言に小川氏が自然に入り込んでいるが、その部分、あるいは前後角田弁護士がどのような発言をしたのかわからないため、いわゆるキリトリ状態のまま、小川氏による「解説」が行われている。
小川氏は、報告集会で配布されたピンバッジを動画内(11:20頃)で披露している。誰か小川氏の意を汲んだ人物が報告集会に参加していたのだろうか。
実際に裁判に提出された証拠は、どうなのか
実際に裁判に提出された証拠に「誰が書いたかわからない文書」が存在するのか、確認してみよう。以下は小林章さんによる閲覧情報をもとに執筆した。
原告側証拠
伊藤氏は今回の訴訟で56号証までの証拠を提出している。そのうち、作成者が不詳なのは【甲22号証の1】のみである。これは、「デートレイプドラッグ+お酒で記憶障害が起きる」ことを記したインターネットサイト(サイト名は未確認)。ただし、甲23号証の1「意見書(山口大学藤宮龍也教授)」および甲24号証の1「意見書(旭川医科大学清水恵子教授)」で、その内容を詳述している。
被告側証拠
一方の被告側は、100号証までの証拠を提出しているが、そのうち作成者が不詳となっているのは、全部で3つある。
一つ目は5号証・医学意見書。これは、整形外科カルテについての整形外科医による客観的評価を示すために提出されたとある。意見書を作成した医師は「匿名希望」とのことで、これはまさに「怪しげな誰か書いたかわからない文書」そのものだ。
二つ目、28号証は「情報速報ドットコム」のインターネット記事をひいて、「ニューヨークタイムズが一面で伊藤さんの事件を報じたこと」を証拠として示している。サイトが明示されているならまぁ問題ないかと思う。
最後に、控訴後に99号証で風俗サイト?を証拠として提出し、伊藤さんの著書内で「下着をお土産に持ち帰らせて」と山口氏が述べたのは伊藤さんによる捏造だと主張しているようだ。小林さんもアホらしくさに、しっかり中身を確認してないそうだ。匿名とかいう以前の問題のような気がするが・・・
こうして見てみると、被告・山口氏側の方が、「誰が作ったのかわからないなんだか怪しげな文書」を証拠として提出していることになる。しかも、伊藤氏側は、ネット記事でざっくりと説明した後に大学教授の意見書で詳述するという形をとっているが、山口氏側は、いずれも言いっぱなし感がある。となると、山口氏は伊藤氏の真摯な訴えに対して「誰が作ったのかわからないなんだか怪しげな文書」を提出しているわけだ。世界で最も本件に詳しいと豪語する小川氏は、山口氏および弁護士を批判してはどうだろうか。