伊藤さんの件について、以下のように、刑事事件として不起訴になったのに民事訴訟を起こしたり本を出版するのはおかしい、という類の主張が時折見られます。このエントリでは、まず刑事訴訟で不起訴になった事案を民事訴訟として取り扱うことについて見ていきます。
「暴力的な言葉拡散、恐ろしい」って、刑事不起訴になった人間を「レイプ犯だ」と名指しで世界中に翻訳出版までしてる自分をめちゃくちゃ棚に上げてるよね。自分がしてる事のほうが恐ろしいって思わないの?https://t.co/9kYspxxE9G
— まうり塩 (@anaiscalico) 2020年10月21日
性犯罪はひとつの事案が刑事/民事両方で訴訟となりやすい
4、刑事と民事の両方で裁判になる可能性が高いケース
刑事と民事の両方で裁判になる可能性が高いケースについて、具体例をもとに見ていきましょう。
(略)
●強制わいせつ・強制性交等
いわゆる「痴漢」や「レイプ」と呼ばれる行為は、刑法の強制わいせつ罪や強制性交等罪に該当します。
被害者の多くは女性で、被害後はこわくて外出できないといった精神的損害を被ってしまいます。刑事事件が進行している間に示談が成立する等の事情がなければ、損害賠償命令制度によって、賠償を請求される可能性が十分あります。
このページには、「性犯罪では刑事訴訟後に民事訴訟を提起される可能性が高い」とあります。刑事事件としては認められなかったが民事事件で救済されるというケースは別に珍しくないのでしょう。
こちらではさらに具体的に掘り下げた解説がなされています。
刑事事件では不起訴でも民事で賠償が認められる事例
一般に、民事事件よりも刑事事件のほうが、事実の認定という面ではより厳格に審理されることになります。
刑事手続きにおいては、「無罪推定の原則」が適用されています。犯人かどうか少しでも疑わしい点があるときには、被告人を無罪にしなくてはなりません。被告人が罪を犯したという点について「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証」が必要になるのです。他方、民事事件においては、その事実の証明について「高度の蓋然性」があれば足りるとされています。
起訴に足るだけの証拠がないとして不起訴になった刑事事件について、「民事事件としては犯行事実を認めて賠償を命じる」といったケースも珍しくはありません。
として、刑事事件では不起訴となったある事件について、民事訴訟では損害賠償の訴えが認められたケースについて触れた上で、裁判所による以下のような判断を紹介しています。
刑事裁判と民事裁判とでは,証拠の証拠能力の制約も求められる立証の程度も同一ではないのであるから,検察官が不起訴処分をしたからといって,そのことにより,民事訴訟である本件訴訟において,本件暴行とAの死亡との間の相当因果関係を肯定することが妨げられるものではない。(略)出典:平成30年3月14日 名古屋地方裁判所 事件番号 平成25年(ワ)第5526号
というわけで、被害を受けた側が刑事訴訟引き続き民事訴訟を提起する事には特段不思議はないように思います。
とはいえ、山口氏の実名を出して 本にしたことについては、山口氏にも当然言い分があると思うので、そこが争いになるのも当然と感じます。伊藤さんも「内容が事実であっても賠償を命じられることがあると聞いていたので心配だった」という趣旨のことを判決後の記者会見で述べていました。一審では山口氏の主張は退けられましたが、今後も推移を見守りたいと思います。