伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

書類送検されたら「容疑者」と呼ぶのはマスコミのルールなのか(11/2 追記)

 

伊藤さん書類送検の件については、この記事が今のところ一番纏まっているようだ。

mainichi.jp

 

この件が今後どう転ぶかは色々議論があるのでわからないが、本エントリでは、「書類送検されたら容疑者と呼ぶのがマスコミのルールなのか」を論じる。

 

 

 

 

 

 

  

まうり塩氏が山口氏の発言の該当部分を切り出した動画を紹介しているので引用する。

 

山口氏「事実はきちんと確認してほしいなというのはね。これはまぁ、私の職業上、あるいは私の被害者としての立場ではあるんですけど」

はすみ氏「被害者(笑)」

藤木氏「ゲロ掃除の被害者の立場ね。」

はすみ氏「ゲロの被害者」

山口氏「あのー、犯害被害者ですから。虚偽告訴の罪で、彼女は今被疑者ですから。」

藤木氏「虚偽告訴だし、、あれ、あの偽証罪ですよね・・・偽証っていうか、、、。。なんだろう詐欺罪、詐欺罪じゃないですか?」

山口氏「詐欺、脅迫、偽証。これはいくらでも私からしてみれば、彼女の犯罪被害で、まぁちょっと、回復不能、想像を絶する犯罪被害を現在、ええ。」

藤木氏「本当ですよ。乳首から血がでたくらいのそんな話じゃないですもんね」

はすみ氏「(笑)」

山口氏「ただ、たとえば、私はもう、あの捜査、任意捜査に協力して不起訴が確定しているのに犯罪者扱いされていて、彼女については、いわゆる、伊藤さんといってね、普通は、例えば藤木さんでもはすみさんでもどなたでも、書類送検されたら容疑者、被疑者っていうのがマスコミのルールなんですね。

藤木氏「そういえばそうだ。」

山口氏「それがなんで彼女だけ無罪放免で、そのいわゆる社会のルールを逸脱して擁護されているっていうのは、私としては納得いかないですね・・・」

藤木氏「やっぱり赤い人たちが入っているんだとおもいます。」

 

10月23日、山口氏は藤木俊一氏のyoutube動画に出演し、このように語ったようだ。書類送検された」なのか「やがてされる」なのかわからないが、2019年に行われた山口による告発をうけて、伊藤さんが名誉毀損および虚偽告訴の罪で捜査中(20年9月、取り調べを受けたと伊藤さんがFacebookで報告)なのは事実であり、書類送検が行われるのも時間の問題だろう。書類送検の意義については上述の毎日新聞記事を参照してほしい。)

 

 

  「書類送検は報道されるべき事実なのか」という論点や、現時点での「マスコミのルール」が正しいかという論点もあるが、それは一旦おき「書類送検されたら容疑者と呼ばれるマスコミのルール」があるのかを以下検討する。

 

 

書類送検されたら容疑者と呼ぶのはマスコミのルールなのか 

 

今回のエントリで取り上げるのは、山口さんの書類送検されたら容疑者と呼ぶのはマスコミのルールだ」「伊藤さんだけ無罪放免で、社会のルールを逸脱して擁護されているっていうのは納得いかない」という主張だ。

 

果たしてそのようなルールは存在するのだろうか。

 

 

www.buzzfeed.com

 

 

そもそも「書類送検」とは、警察などの捜査当局が事件の被疑者の身柄を拘束しないまま、書類をもって検察官に刑事事件を送ることを意味している言葉だ。

書類を受けた検察側が、被疑者に対する処罰の審理を裁判所に求める、「起訴」という手続きを行うかどうかを判断することになる。

ただ、書類送検された事件では、刑事罰を科するほどではないなどと判断され、起訴されない(=不起訴となる)ことも多い。

多くのメディアは、身柄が拘束される「逮捕」の場合は被疑者を「容疑者」の呼称をつけて報じる。一方で、書類送検の場合は「さん」「氏」などの呼称や、職業上の肩書きなどをつけて報じるケースが多い。

実際、過去に元ジャニーズの稲垣吾郎さんや草なぎ剛さんが逮捕された際には、全国紙(朝日、読売、毎日、産経)は「容疑者」と報じている。

 

各社はどのような規定を定めているのだろうか。

共同通信社が発行している「記者ハンドブック」は、被疑者の呼称について、以下のように記している。

 

実名を出す場合の任意調べ、書類送検、略式起訴、起訴猶予、不起訴処分の場合は『肩書』または『敬称』(さん・氏)を原則とする。

 

また、朝日新聞出版が発行している「事件の取材と報道 2012」 でも同様だ。

 

書類送検されても起訴されないケースは多く、書類送検の時点では原則、実名・肩書き呼称とするのが望ましい。

 

ただ、朝日新聞の場合は「警察が証拠や供述に基づいて起訴を求め」た場合などについて、こう言及している。

 

社会的影響が大きな事件などでは、特にこうした見通しを十分に取材したうえで、実名・容疑者呼称を検討する。

 

この記事を読む限り、一部の例外を除き「書類送検されたら容疑者と呼称する」というルールは存在しないようだ。

 

 

 

事例を見てみよう

 

では実例を見てみよう。

 

news.tbs.co.jp

 

医師6人が書類送検されているが、「容疑者」という呼称が用いられていないどころか実名すら報道されていない。

 

www.jiji.com

 

こちらも、書類送検されているが容疑者どころか実名報道もない。

 

www.nishinippon.co.jp

 

書類送検後、起訴されたことで実名+容疑者で報道されている。

 

www.msn.com

 

逮捕事件では実名+容疑者呼称である。

 

news.tbs.co.jp

 

国会議員でも書類送検だけでは容疑者とは呼ばれない。

 

www.asahi.com

 

逮捕された国会議員は「容疑者」だ。

 

friday.kodansha.co.jp

 

有名人の場合はどうだろう。吉澤ひとみさんは逮捕されたので「容疑者」。

 

www.shikoku-np.co.jp

 

小泉今日子さんは書類送検されたが容疑者呼称なし。

 

 

 

 

ざっと見たところ、「容疑者」呼称についてはバズフィードの記事が正確らしく書類送検の状態で「容疑者」と呼称されているケースは見当たらなかった。私の探し方が悪いかもしれないので、反例を見つけた方はコメント欄でおしえていただければ幸いだ。

 

 

 

今後、いくつかの反例が出てくる可能性はあると思うが、「書類送検されたら容疑者と呼ばれるのがマスコミのルール」という山口氏の発言を裏付けるものはないと言ってよいのではないか。

 

 

 

なお、山口氏は伊藤さんのことを容疑者と呼ばれるべきだと、地裁判決時点から主張している。

 

news.livedoor.com

 

https://archive.vn/mB43L

 

 

 

 

 

かくいう山口敬之さんはどうだったのか

ところで、山口敬之さんは2015年8月に書類送検され、16年7月22日に不起訴処分となっている。では、この間山口氏は「容疑者」と呼ばれたのだろうか。その間の報道を探してみた。

 

 

 

www.excite.co.jp

2016年6月。山口氏に極めて批判的なリテラの記事だが、「容疑者」呼称ではない。もともとこの本は2016年7月10日の参議院議員選挙を前に出版されたものだ。山口氏は、容疑者の身でありながら安倍晋三総理の写真を表紙に施した書籍を、選挙直前に出版したのだ。

 

 

gendai.ismedia.jp

 

2016年7月20日、こちらは不起訴処分2日前の報道である。山口氏はこの時書類送検されていたことを知っていた上で本を著し、インタビューを受けたのだろうか。

 

 

山口氏の主張に則って考えた場合、書類送検されていた山口氏は、社会のルールから逸脱し擁護されていたことになる。山口氏は、自分が書類送検されたことはなかったことにしているのだろうか。

 

 

なかったコトにして

なかったコトにして

 

 

 

(201025 追記)

さて、このようなご意見をいただいた。

 

 

「容疑者」は刑事訴訟法上の用語ではなくマスメディア用語なのは今更論じることでもない。私が問題にしたのは、数年前までTBSに籍を置いていた山口氏の「書類送検されたら容疑者と呼ぶのがマスコミのルールだ」という発言が正しいかどうかである。そして、一部の反例はあるかもしれないが、基本的に「書類送検されたら容疑者と呼ぶのがルール」とまでは言えないのではないかというのが本エントリの結論だ。もちろん、呼びたい人はそう呼べばよいが。

 

 

www.oricon.co.jp

 

書類送検」が報道されるべき事実かどうかはさておき、TBS社員の場合は書類送検されただけでこのように報じられることがあるようだ。

 

 

 

なお、山口さんが書類送検された頃、伊藤さん側は本件について日本テレビの記者と報道に向けて動いていたようだ。

知り合いに聞いた連絡先に連絡すると、清水さんはすぐに相談に乗ってくれた。そして、それなら警視庁担当がいいんじゃないか、という判断で、日テレの警視庁記者クラブの人を紹介してくれた。

日テレの警視庁担当記者は、話を聞いた当日に私のインタビューを撮った。当初は書類送検のタイミングで報道しようと動いていた。なぜ逮捕状が使われなかったのか調べ、検察が動く機会に合わせて、正当な捜査が行われたのかを報道で問うチャンスであった。しかし、実際に書類送検されても、報道されることはなかった。次は、「年明けのタイミングで出したい」と2015年の年末に連絡が来た。が、これも実行されることはなかった。最後は、「不起訴になったら報道する」と言われたが、その場合どういう切り口で報道するのか、正直、不信感を持った。不起訴という結果がでてしまったタイミングで、どうやって真実を伝えるのか。わからなかった。(伊藤氏「BlackBox」より引用 )

 

2015-16年の山口氏は、ワシントン支局長から営業局へ異動となっただけで夕刊フジが一面トップで報じるような大物記者であった。そんな彼の「準強姦罪書類送検」という事実を、どの社も報じなかったのは、なぜだろうか。

 

山口氏は避妊することなく性行為を行ったことをメールで認めていた。就職希望者との性行為という時点で、仮に完全に山口氏の主張通りの事実経過であったとしても、山口氏だけでなくTBS本体が社会的批判を免れない事件なのだが。