伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

山口氏の訴えこそ虚偽告訴ではないのか

 伊藤詩織さんが虚偽告訴罪および名誉毀損罪で書類送検とのことで、界隈が盛り上がっているようです。

 

 

 

 山口さんが告発を行った以上、受理されて一定の捜査が行われ、検察に書類が送致されるところまでは既定路線ですので、これ自体は何ら驚くことはありません。問題はこの後、検察がどのような判断を下すか、です。

 

 

 

まず虚偽告訴罪について。虚偽告訴罪とはどのような刑罰なのでしょうか。

 

best-legal.jp

 

「虚偽の告訴、告発その他の申告をすること」が処罰対象となっていますが、この「虚偽」とは客観的真実に反することをいいます。

虚偽だと思って申告したけれど、実際は本当に犯人であった、という場合は虚偽告訴罪は成立しません。

なお、「偽証罪」は自分の「記憶」に反する証言を行う犯罪であるため、ウソの証言をしたつもりが、たまたま真実であった場合も処罰されます。

  • 告訴罪の故意
  • 虚偽であると認識していることが必要

まず、虚偽であることを認識していることが必要です(真実と信じて告訴したら、実際には真犯人ではなかった、という場合には虚偽告訴になりません)が、事実に反しているかもしれないけど構わない、という未必の故意でも虚偽告訴罪が成立する可能性があります。

 

というわけで、伊藤さんが虚偽告訴罪で起訴されるためには、「伊藤さんが自らの訴えがウソであると知っていながら山口氏を告訴した」と、検察が証明する必要があります。

 

これはかなりハードルが高いでしょう。山口氏がそんな証拠をつかんでいたのなら、民事訴訟でそれを提出すればよかったのですから。

 

reiwa-kawaraban.com

仮に故意がある場合、「未必的認識で足りる」とするのが判例最判昭和28年1月23日)。その理由は「確信がないのにみだりに他人を犯罪者として告訴(発)を許すことは、告訴(発)が悪用される場合が多い上、それだけで刑事司法、懲戒作用を誤らせるだけでなく、個人の法的地位を危険にさらすことになる」(条解刑法第2版 p452 弘文堂)からである。分かりやすく言えば、犯罪成立に関する故意の有無は緩めに運用されているということである。 

 

令和電子瓦版ライターの松田隆氏によればこのような解説がなされています。伊藤さんの中に「絶対に山口氏が犯人だという確信」がないことまで示せれば良いということでしょう。確かにそのような最高裁判例があるのは事実ですが、

正当な権利行使を萎縮させないため、確定的認識を要するとの見解も主張されている。(山口厚、刑法第3版(2015))

との解説もあります。伊藤さんの訴えは、すくなくとも民事訴訟で勝訴判決を得る程度の説得力を持っていたのですから、伊藤さんの訴えが嘘であったと証明するのはかなり難しいように感じます。

 

むしろ、山口氏による訴えこそが虚偽告訴にあたる可能性はないのか?と思っていたら、同様の趣旨の解説がありましたので紹介します。

 

news.yahoo.co.jp

 

伊藤氏はこの告訴に対して山口氏を虚偽告訴罪で逆告訴することも可能ですが、いずれにせよ検察は関係者を取り調べるなど捜査を尽くし、処分を決しなければなりません。改めていかなる事実を認定するのか、特に伊藤氏を不起訴にする場合、理由が「起訴猶予」「嫌疑不十分」「嫌疑なし」のいずれになるのかが注目されます。

 

現時点では訴訟の推移を見守るほかありません。

 

 

 

 

次に名誉毀損罪について。こちらは民事訴訟ですでに山口さんの訴えが退けられています。

 

greenbox2020.hatenablog.com

 

したがって、上記エントリでも論じた(というより半ば常識に属するところか?)とおり、一般的に言って民事訴訟よりもハードルの高い刑事訴訟において山口さんの訴えが認められる可能性は低いのではないかというのが大方の予想でしょう。もちろん山口さんに何か秘策があれば話は別ですが。