伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

山口氏の控訴審陳述書を検討する ①「性行為にいたる経緯について」部分

伊藤さんの民事訴訟について、控訴審における山口氏の主張(以下、控訴審陳述書と呼ぶ)が明らかになりました。時系列チェックシリーズはいったんお休みして、そちらを取り上げます。

 

今回は、控訴審陳述書のうち、「6.性行為に至る経緯について」という部分を取り上げます。参考にしたのはこちらのサイト。

lisanha1234.hatenablog.com

 

リンク先には、山口氏の主張の全文が掲載されていますが、直接的な性的表現が多数含まれますので、閲覧される場合は若干の注意が必要。本エントリでは、ここで行われている山口氏の主張について検証を行います。なお、ブログ主が重要だと思った順序で取りあげており、控訴審陳述書の主張の順序とは異なります。大規模エントリとなったための措置です。ご了承ください。

 

 

ざっくりいうと

1.内容そのものは一審と大きな変化なし

2.伊藤さんはアルコール性健忘であったという従来の主張を後退させている

3.未婚女性である伊藤さんに配慮して一審では性行為の詳細について述べなかったというが、山口さんは一審で伊藤さんのことを「嘘つきの常習犯」とまで指摘している

4.伊藤氏が深夜に「私は不合格でしょうか」と言った可能性はあるが、山口氏の説明とは異なる状況で発せられたものではないか

5.その他、地裁判決や伊藤さんの著書ですでに反駁されている内容の主張が多い

 

 

 

 

実は一審での主張とほぼ同じ内容

 

まず最初に最も大事なことから。今回はじめて山口氏の主張に触れた方にとって、控訴審陳述書は伊藤さんの主張を完膚なきまでにたたきのめすものに感じられたかもしれませんが、実は控訴審陳述書は、一審での主張と骨子に殆ど変わりがありません地裁判決で「山口氏の主張には信用性がない」と指摘された部分についてこの陳述書内では答えておらず、とくに見るべき物がないのです。それでは内容を一つずつ見ていきましょう。

 

 

アルコール性健忘という主張

 あの夜、伊藤氏にアルコール性健忘という現象が発生したかどうかは知る由もありません。ただ、伊藤氏が午前2時から3時頃、嘔吐した失態を穴埋めするために積極的に性行為を求めてきたことは、紛れもない事実です。

 

山口氏は冒頭で「アルコール性健忘」というキーワードを提示し、「それが起こったかどうかは知るよしもない」としています。本件において、「アルコール健忘」については、山口氏のhanada手記(2017年10月出版)にはこのような記載があります。

 

何回か聴取が繰り返されたあと、捜査員は私にこう言いました。

「あなたの供述は何度聞いても詳細で矛盾がない。他方、詩織さんは朝まで記憶がなかったと言っている。双方の主張は一見矛盾しているようだが、2人ともウソをついていない可能性が1つある。それは『ブラックアウト』だ」(中略)(ブラックアウトとは、)アルコールの影響で、記憶の一部または全部が欠落してしまう現象のことをいうらしい。 

【独占手記】私を訴えた伊藤詩織さんへ「前編」|山口敬之 | Hanadaプラス

 

山口氏は、事件後の警察からの取り調べで「伊藤さんは飲酒のために事件の際の記憶を失っている可能性がある」と述べられたとで主張しています。このとき、以下のような問題が発生します。

  1. 伊藤さんが飲酒によって事件の際の記憶を失っているのなら、産婦人科及び警察に「性行為の時間は午前2−3時頃」と言うはずがない
  2. 記憶を失うほど酩酊した女性と性行為をするのは準強姦そのもの
  3. 記憶を失うほど酔っている人に全く酔った様子が見られなかったという主張は極めて不自然

山口さんにとって極めてスジの悪い主張ですよね。そのため、今回の陳述書では「アルコール性健忘かどうかは知るよしもない」等と曖昧な主張にとどめているのでしょう。

 

 

 

2時→5時と変遷させたのは、帰宅時の防犯カメラ画像と整合させるため?

ところが、私が「準強姦」で不起訴になり、検察審査会でも不起訴相当となった後に、伊藤氏は「午前5時頃の強姦致傷」へと主張を変遷させたのです。「午前5時頃」に時間を変遷させたのは、防犯カメラの映像から、伊藤氏自身が、午前6時前にホテルを出ているのが明らかであったので、その直前に襲われたとのストーリーを作り上げるためであろうと思います。

 

 

 山口氏はこのように主張するのですが、hanada手記にはこのような記載があります。

何回か聴取が繰り返されたあと、捜査員は私にこう言いました。

「あなたの供述は何度聞いても詳細で矛盾がない。他方、詩織さんは朝まで記憶がなかったと言っている。双方の主張は一見矛盾しているようだが、2人ともウソをついていない可能性が1つある。それは『ブラックアウト』だ」(中略)(ブラックアウトとは、)アルコールの影響で、記憶の一部または全部が欠落してしまう現象のことをいうらしい。 

【独占手記】私を訴えた伊藤詩織さんへ「前編」|山口敬之 | Hanadaプラス

 

 

これは、「伊藤さんは当時警察に対して午前2時か3時頃の準強姦を主張していた」との主張を、当の山口氏自身が真っ向から否定するものです。警察は事件2週間後の15年4月17日には動画のDVDを入手、内容を確認しています。

 

  1.  2015年4月17日に作成した捜査事項照会書に基づき、警察は防犯カメラDVDを入手した
  2. 防犯カメラDVDには、午前5時49分から50分にかけてホテルから帰る伊藤さんの姿が録画されていた

ということがわかります。したがって、仮に伊藤さんが辻褄合わせのために被害時刻を午前2時から午前5時に変更するなら警察に相談する前からそうしているでしょう。

 

 

午前2時、伊藤さんは完全に酔いから覚めていた・・・?

あの夜、午前2時か3時頃に伊藤氏が目覚めてトイレに立ち、戻ってきた後の伊藤氏は、口調も歩き方もしっかりとしていて、全く素面に見えました

 

一審判決では、山口氏の主張が信用できない理由として「被告の供述によれば一人で脱衣もままならない状態であったという原告が、約2時間という短時間で、酔った様子が見られないまでに回復したとする点についても疑念を抱かざるを得ない」と指摘されています。山口氏は「伊藤氏が午前2時に完全に酔いから覚めていたこと」を何らかの客観的手段で示す必要がありますが、この陳述書では特に記載がありません。資料を閲覧してきた小林さんによると、山口氏はとある精神科医による意見書を提出しているとのことなので、そちらの報告を待ちたいと思います。

 

 

本当の被害者ならば医師の診断書を提出できるはず?

控訴審陳述書をさらに読んでいきましょう。

原判決は、(中略)「証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から本件行為をされた際に、乳首や腕、右腰 を負傷したこと、…が認められる。」などと、客観的証拠の ないままに「傷害」の人身被害 まで不当に認めてしまったのです。 本当の被害者であれば、医師の診断書を提出することで、容易に傷害被害を立証できるはずのところ、そのような客観的な証拠は何もありません。 
警察は、伊藤氏が着用していたブラジャーを押収し、私のDNAを採取しています。伊藤氏が、本当に、乳首から出血していたのであれば、伊藤氏の血液がブラジャーに付着しており、警察は、容易に、採取できたはずなので、「致傷」事件として処理したはずです。

 

 

「本当の被害者であれば医師の診断書を提出できるはず」とのことですが、伊藤さんは、著書の2015年4月4日部分でこう書いています。

そうしている間にも、証拠保全に必要な血液検査やDNA採取を行える大事な時間は、どんどん過ぎ去っていた。当時の私には、想像もできなかった。この事実をどこかで知ってたら、と後悔している。

 

という山口氏の指摘は、2017年に出版された伊藤さんの著書によって既に反論されています。hanada手記の頃からこんな調子なのですが、この期に及んで伊藤さんの主張を踏まえない主張を行う姿を見ると、山口氏は本当に訴訟で勝利するつもりがあるのか、疑問に思います。

また、被害者である伊藤さんがブラを「押収」されるはずがないというツッコミはさておき、血液付着の件についていえば、伊藤さんが下着を警察に提出したのは事件から2週間近くたった4月16日頃の事です。仮に肉眼的に明らかに血液が付着していたとしても、いつ付着したものかわかりませんので、証拠としての能力は低いでしょうね。

 

 

一審で詳述しなかったのは伊藤さんへの配慮?

引き続き、控訴審陳述書について検討を進めましょう。

 私はこれまで、警察や検察の聴取や、裁判を通じても、性行為に至る過程と性行為そのものについては、求められた場合に必要最小限を語るにとどめていました。それは、伊藤氏の誘惑行為を詳しく述べる事は、 独身女性である伊藤氏にとって酷な仕打ちに感じられたからです。

伊藤さんへの配慮から、性行為の詳細を語らなかったという山口さん。では、ここで山口さんは伊藤さんにどのような主張をしてきたのかを、みていきましょう。

 

あなたは、いびきをかいて、寝ていた

 

私は翌朝、アメリカに帰ることになっていたので、パッキング前の荷物を窓際にまとめて置いていましたが、その上にも吐瀉物が飛び散りました。

自分の荷物を汚されて少なからず驚いていると、あなたは今度は踵を返して、無言でトイレに駆け込みました。あなたの吐瀉物をタオルで拭いておりますと、トイレのなかから嘔吐する大きな音が2度しました。
 
正直に言って、本当に迷惑でした。やらなきゃならない仕事を抱えて、翌日の移動のためにパッキングもしなければならないのに、荷物をゲロまみれにされたうえにトイレを占領されている。

(中略)

あなたは謝罪ともうめき声ともつかない声を上げながら、なんとか自ら起き上がりました。そしてゲロまみれのブラウスを脱ぎ、部屋に戻るとベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまったのです。
 
私はあなたのあまりの痴態に怒り呆れましたが、翌日着るものがないとかわいそうだと思い、トイレに放置されたあなたのブラウスのゲロを拭って浴室に干しました。

また、バスルームの床面もゲロまみれだったので、シャワーで洗い流すなどして部屋に戻ると、あなたはいびきをかいて寝ていました。

【独占手記】私を訴えた伊藤詩織さんへ「前編」|山口敬之 | Hanadaプラス(強調は引用者による)

 

山口さん、ゲロだゲロだと何度も主張していますね。まぁ、山口氏によればこれは事実だということだから仕方ないのかな・・・では、2018年1月に提出された、山口氏代理人から伊藤氏への反訴の内容を見ていきましょう。

 

伊藤氏が、通常の女性であれば最も秘匿したいはずの性暴力被害情報について、自ら実名および顔面を公然とさらけ出して、これを赤裸々に生々しく訴えていることは、相談相手の医師らの間でも周知の事実であり、このような特異な伊藤氏の行動およびその際の伊藤氏の顔の表情が笑顔であること等の諸事情から、伊藤氏について、「境界性パーソナル障害」を強く疑う医師が当代理人の知人だけでも複数いることを言明しておきたい。

https://twitter.com/Akira_5884/status/1113255588056621057?s=20

 

うーん、伊藤さんを「境界性パーソナル障害」呼ばわり。でも、これは山口さんじゃなくて弁護士が言ったことだからよしとしましょうかね。では、山口さんは似たような発言をしていないかというと・・・

 

「なぜ伊藤さんがこれだけの嘘を言っているかは分かりません。ひとつは、元検事がいるという明らかな嘘をついた。私個人としては、伊藤さんの人間性を攻撃したいと思いません。でも私は真実を述べています。私から見れば、伊藤さんは嘘つきの常習犯です」(山口氏の英語の発言を、通訳者が和訳)

ジャーナリストとして出席していた伊藤氏本人を目の前にして、である。(同記事より)

 

山口敬之氏「嘘つきの常習犯」→伊藤詩織氏「私の話には一貫性がある」 「同日会見」現場で起きた応酬: J-CAST ニュース【全文表示】(強調は引用者による)

お、おう、、山口氏も伊藤さんの事を「嘘つきの常習犯」とまで指摘していますね。しかも、伊藤さんの面前で、です。というわけで、今更山口さんが紳士っぽく振る舞うのはちょっと違うのではと指摘させていただきます。

 

 

 

君は合格だよ/君は不合格ではないよ

伊藤さんの著書では、山口氏は行為の後に「君は合格だよ。早くワシントンに連れて行きたい」などと伊藤さんに語ったとのことですが、その部分について山口氏は控訴審陳述書で次のように語っています。

伊藤氏が午前2時か3時頃の性行為の経緯を覚えていると考えていたからこそ、私は伊藤氏が4月4日の朝、「君は不合格ではないよ」趣旨の発言をしたのです。 

がこ発言をしたことは、伊藤氏も認めています。伊藤氏が性行為の最中でさえも「私は不合格ですか?」と呪文のよう繰り返しことを、伊藤氏本人が覚えているに違いないという前提での発言なのです。もし、伊藤氏の主張通り、伊藤氏が朝5時頃まで意識を失ったままの状態だとすれば、この発言は意味を失い、辻褄が合なくなってしまいます。 

山口氏はこの主張を一審の時から行っていました。実は、この部分は山口氏は正確なことを語っている可能性があるとわたしは考えています。なぜならば、

  1. ドアマンの証言でも、伊藤さんは「私が汚しちゃったんだから綺麗にするの」などと自責的な内容を何度も繰り返す様子であった。これ自体はアルコールを含む薬物の作用として何ら不思議はない。
  2. 伊藤さんが主張するような身体につけられた傷は、伊藤さんが主張する午前5時以前にできたものと考えるのが自然
  3. 「きみは合格だよ(不合格ではないよ)」という発言は、伊藤さんが完全に記憶を失っている時に何らかの発言を行った事への返答と考えることができる

だからです。伊藤さんがなぜ「私は不合格でしょうか」と発言したのかは、ブログ主は山口氏の主張とは別の仮説を考えています。大雑把に言うと、アルコール and/or 睡眠薬によって意識朦朧状態であった伊藤さんが、山口氏からの何らかの発言をきっかけに「私は不合格でしょうか」とうわごとのように何度も繰り返したのではないかというものです。

 

なお、上記引用部分で山口氏が主張する

もし、伊藤氏の主張通り、伊藤氏が朝5時頃まで意識を失ったままの状態だとすれば、この発言は意味を失い、辻褄が合なくなってしまいます。 

には同意できません。それは山口氏の「伊藤氏本人が覚えているに違いないという前提」が誤っているだけで、伊藤さんが自分の発言を覚えていようがいまいが、発言があったのなら辻褄が合わなくなることはありません。

 

カルテ記載の件

控訴審陳述書では、以下のように「午前5時に被害を受けたというカルテ記載はないから伊藤さんの主張は嘘だ」という主張をしています。

伊藤氏が当初、朝5時頃に犯罪被害を受けたという認識すら持っていなかったことは、医療機関の複数の記録からも証明されています。伊藤氏が4月4日に受診した診療所、イーク表参道のカルテ(乙7号証)、4月17日に受診したまつしま病院のカ ルテ(乙8号証)、5月7日に受診した新百合ヶ丘総合病院のカルテ(乙9号証)でも、伊藤氏は「(被害の間の)記憶がなく」「4月3日に被害」など)と述べたと記録されていて、「4月4日朝の、自分の意識がある状態での性行為」に言及している 記録は皆無なのです。

ですが、この辺の理屈もすでに一審判決で否定されています。

 

産婦人科のカルテ記載が「午前2時ー3時」となっているのは伊藤さんの主張とは整合しないので、山口さんの攻め手として最も強力なのはこの部分ですね。一審でも、検事のおじさんがどうのこうのとか、ミネラルウォーターの領収書がとか、重要でないことを主張しなければ良かったのにと思いますが・・・。

 

 

伊藤さんは「ドラッグ」を使われたと吹聴した?

伊藤氏の思い込みであり全く根拠がない「デートレイプドラッグ」なる薬物の使用疑惑については、伊藤氏は警察・検察の捜査、 検察審査会 の手続き、さらに一審二審を通じて、公的な場ではただの一度も主張したことがありません。ところが、自分の著書(「Black Box」)はもとより記者会見やマスコミのインタビュー、テレビやラジオの番組出演では、あたかも私が薬物を使った事実があるかのように、何度も何度も繰り返し主張しました。

伊藤さんのすべての会見やインタビューを確認できたわけではありませんが、少なくとも伊藤さんの著書BlackBoxにおいては、15年4月30日の記載として

私はお酒にはとても強い方だ。いつも最後に友人を介抱するのが役目で、お酒、ましてや、あの程度の量を飲んだだけで意識を失ったことは一度もない。体調も普段と変わらなかった。

この時点でこの話をしても証拠がないと言われるだろうが、この事実をA氏にどうしてもわかってほしかったため、この日もデートレイプドラッグについて、もう一度話した。

時間は経ってしまったが、デートレイプドラッグを使われたかどうか検査できないか、とは最初に会ったときから聞いており、この時もまた聞いたが、A氏からは、「一回の睡眠薬の服用では殆ど体内に残らず、覚醒剤の常習犯などと違って毛髪にも残らないので、今からやっても意味は無い」と告げられた。

こうして、デートレイプドラッグの使用については、ついに確証を得られないままとなった。

とあります。これを普通に解釈すると、「薬物を使われたと考えているが、確実な証拠を得る事ができなかった」にとどまり、「山口氏が薬物を使った事実がある」とまではどうやっても解釈できません。

 

 インタビュー記事について、例えば

www.nikkansports.com

この記事では、見出しに「デートレイプドラッグを」とあるが、本文を読むと

詩織さんはワインや日本酒を問わず「お酒ですっぽり記憶をなくした経験はなく、被害に気づいて目が覚めた時も、お酒の二日酔いのような状態ではなく、頭がクリアだった」として「デートレイプドラッグを混入されたと思っている」とした。詩織さんの弁護士は、睡眠薬などの悪用により「他人からは普通に行動しているように見えても本人は覚えていないという症状が出るとされており、状況と合致する」と指摘した。

とあり、検査で陽性が出たとかそういう話ではないことは理解できるはずです。見出しに問題があるとかいう話なら、山口氏は個別にメディアを相手取って訴訟を起こすべきでしょう。

 

 

 

 今回は以上です。次回は、控訴審陳述書の他の主張について検討します。