伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

伊藤さんは強姦致傷の主張をしているのか

「エコーチェンバー」エントリに「津谷幸宏」さんからいただいたコメントに、「5時からの強姦致傷は、明らかに、後付けの捏造だと確信しております」とある。当エントリではそれにお応えしたいと思う。ちなみに私は高等教育で法学を学んだことは一度もないので、解釈に大きく誤りがある可能性はある。間違っていたら指摘して欲しい。

 

 

 

そもそも伊藤さんは「強姦致傷」の訴え、請求をしているのだろうか。

 

 

まず、事件後に伊藤さんが山口氏に送ったメールを読む限り、事件の結果からだに傷がついたという訴えをしていることがわかる。

 

山口さん、今までは必死に自分の中の記憶と感情をおさえてきました。
あの夜、山口さんに意識がないまま強制的に性行為を行われ、
肉体的にも精神的にも傷つけられました。
あの後、膣は数日間痛み、乳首はかなり傷つきシャワーを当てられないほどでした。
膝の関節もずれ今日までサポーターをつけています。

そして信頼をしていた山口さんにこのような事をされ、
ショックで夜も眠れず仕事に出られなくなったりしていますが、
今後の自分の将来も考え、必死にこのことに蓋をしてきました。

でも、現在、生理が大幅に遅れ妊娠という可能性が大きくなり、
現実的な対処に早急に向き合わなければいけない今、
山口さんからの誠心誠意のある謝罪、仕事、妊娠に対しての対応を
早急にしていただかなければ、
もう精神的にも限界で回りに助けを求めざる終(ママ)えません。

本来なら既に対応しているべきだと思います。
いち早く病院に行って対応しなくてはならない中、1、2週間で帰国すると
いっていましたが、早急に帰国して対応してください。

また日本で通じる携帯電話を持ってください。
こちらからすぐに連絡できないのは困ります。
全ての内容に返答をお願いします。

今までのようにメールの内容を無視、否定をされるのはもう限界です。

 

これは2015年5月6日のメールで、裁判にも提出されている。赤字は筆者が施したもの。体にキズがついたことを訴えていることがわかる。

 

 

 

強姦致傷(現在は強制性交等致傷)罪の条文は刑法181条2項にある。

第177条第178条第2項若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。

 

 

 

これだけでは正直わかりづらいので、法律事務所による解説ブログを引用する。どういう概念なのか、判例も踏まえて解説されている。

www.t-nakamura-law.com

 

 

 

この解説記事を読む限り、本事件では伊藤さんが身体に残った傷を診断書などで証明できれば準強姦致傷罪で告訴が行われた可能性もあるように思うが、実際には診断書がとれていないこともあり(伊藤さんは整形外科で、受傷は他日のものであると医師に語ってしまった)、高輪署は準強姦罪での告訴を行ったのだろう。

 

やや脱線するが、強姦致傷という概念については、この解説記事にもあるようにPTSDなどの精神的外傷については軽視してきた経緯があるようで、身体的な傷に重きを置きすぎており、どことなくバランスを欠いているように感じる。

 

 

 

さて本件に戻ると、告訴状を読むところでは、山口氏の不法行為責任は準強姦罪・強姦未遂罪に基づくものとして記述されているようだ。伊藤さん側の訴状を読んでみよう。

【性行為の描写を含むため、以下閲覧注意】

 

 

 

 

 

 

lisanha1234.hatenablog.com

 

訴状は、
A.まず事件の概略を説明し、
B.山口氏の行為が法律上はどのように問題であるか整理し、
C.請求内容を述べる
という構造になっている。

Aにあたるのが第1-第5部分。

Bにあたるのが第6 被告の不法行為責任。

Cにあたるのが第7  原告の損害。

 

 

 

第4 ホテル居室内でのやりとりを一部引用する。

2 原告は、バスルームに駆け込んで鍵をかけた。バスルーム内には、ヒゲそりなどの男性もののアメニティがあったタオルの上に並べられていたことから、その場所が、被告の滞在しているホテル内であることが分かった。原告が鏡で自分の裸の体を見ると、乳首から出血しており、体がところどころ、傷ついていることが確認できた。原告は被告から服を取り戻して、直ちに部屋から逃げる必要があると考えた。(強調は引用者による)

おそらくこの強調部分を根拠に、「伊藤さんは強姦致傷を主張している」と津谷さんは述べているのだろう。言いたいことはわからないでもないが、この部分は「意識がないうちに性行為に着手された」という主張のためのものではないか。後述する損害賠償を請求する部分には、この部分の記載がない。

 

 

3 原告が、バスルームのドアを開けると、すぐ前に被告が立っており、そのまま肩をつかまれ、再びベッドにひきずり倒された。そして、抵抗できないほどの強い力で体と頭をベッドに押さえつけられ、再び性的暴行を加えられそうになった。原告が足を閉じ体をねじ曲げたとき、被告の顔が近づきキスをされかけたが、原告が必死の抵抗で顔を背けたところ、原告の顔はベッドに押しつけられた状態となった。被告が原告の顔や頭と体を押さえつけ、自分の体で覆い被さった状態であったため、原告は息ができなくなり窒息しそうになった。原告が必死で自らの体を硬くし、体を丸め、足を閉じて必死に抵抗を続けたところ、頭を押さえつけていた被告の手が離れ、ようやく呼吸ができるようになった。原告が、「痛い。止めて下さい」と言うと、被告は、「痛いの?」などと言いながら、無理やり膝をこじ開けようとしてきたが、原告は体を硬くして精一杯抵抗を続けた。

この部分も、膝については「暴行を用いた性行為」を主張するためのものであろう。後述する「原告の損害」部分には「膝の痛みが長引いて労務不能状態に陥ったぶんを補償せよ」というような主張はない。ただし、著書ブラックボックスには「数ヶ月痛みが続き、今でも時折うずく」という記載はあるから、「数ヶ月膝に痛みが続いた」というのは嘘だとか、ホテル内ではなくトイレで受傷したものだとか、山口氏が証明できるのならそうされたらよいと思う。

 

 

 

第6 不法行為責任部分を引用する。

第6 被告の不法行為責任
1 被告は、平成2744日の午前5時ころ、原告が意識を失っているのに乗じて、避妊具もつけずに原告の下腹部に陰茎を挿入させる等の性行為を行ったのであり、かかる行為は、原告に対する故意による不法行為に該当し、被告は民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

2 さらに被告は、平成2744日の午前5時ころ、原告が意識を取り戻し、性行為をやめるよう求めた後も、原告の体をおさえつける等して、性行為を続けようとしたのであり、かかる行為は、原告に対する故意による不法行為に該当し、被告は民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

 

このうち、1は準強姦(現在は、準強制性交等)罪の条文(刑法178条の2)に準じて記述されており、

 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

 

 

2は強姦(現在は強制性交等)罪の条文(刑法177条)に準じていることがわかると思う。

十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 

また、第7の原告の損害部分をみてみよう。

第7 原告の損害
1 原告は、上述のとおり、突然事件のことを思い出したり、街中で、被告に似た人物を見ただけで、吐き気を催してパニックを起こすという症状が現在に至るまで続いており、被告の身勝手な行為によって極めて重大な肉体的・精神的苦痛を被った。原告がこれによって被った損害に相当する慰謝料は金1000万円を下回らない。

2 原告が自ら被告に対して損害請求していくことは極めて困難であり、請求金額の1割にあたる弁護士費用については、被告の不法行為と相当因果関係ある損害と判断されるべきである。

PTSDのことは記述されているが、例えば膝の痛みが強く仕事を休むことを余儀なくされた、とかそういう請求はない。

 

 

 

従って、伊藤さんは強姦致傷の請求などしていないと言える。なので当然、その証拠を示す必要はない。言い換えると、証拠がないから強姦致傷の請求をしていないのだ。

 

このように述べると、津谷さんからは「証拠がないのに身体に傷がつけられたなどと主張するのは悪質だ」などという反論が帰ってくるかもしれない。

 

しかし私が思うに、本件について憤っている世の中の人の多くは、「準強姦」あるいは「強姦未遂」の内容について憤っている。「付随して身体に傷がついた」ことにフォーカスを当てて憤っている人など実在するのだろうか。