山口氏は19年12月18日の地裁判決後、当日およびその翌日の二回、記者会見を行っていますが、当日行われた会見については現在、ノーカット版を見ることができません。
https://www.youtube.com/watch?v=rQ1Yr6XHu4A
↑この動画は非公開です。
https://www.tv-tokyo.co.jp/news/original/2019/12/18/008253.html
↑お探しのページは見つかりませんでした。
理由は明らかではありませんが、筆者は、山口氏が本エントリタイトルのような発言を行ったせいで多くの批判が殺到したことが影響しているのではないかと考えています。実はこの会見は、山口氏が「代理人弁護士の指示で公の発信を控えていたがこれからは積極的に行っていきたい」と述べた瞬間に代理人弁護士が山口氏をガン見する場面や、小川榮太郞氏が「私は本件について世界で最も詳しい」「君たち報道の人間がだらしないから、、フルトヴェングラーがどうのこうの」とドヤ顔発言する部分、花田編集長が「勝つと思ってたのに、、こんな判決が出るなんて、、」と意気消沈する様子など色々見所が多かったのです。
さて、本エントリでは、まず山口氏の発言を動画および書き起こしで紹介。次に、翌日も行われた会見で山口氏が当該発言について問われどのような反応を示したかを確認し、最後に山口氏発言に対して行われた様々な批判を見ていきます。
2019年12月16日 山口氏、自身のFBで判決当日の会見をリリース
判決を2日前にして、プレスリリースを行う山口氏。
2019年12月18日 出版クラブビル会見
まず、判決当日の記者会見動画を見てみましょう。
山口敬之「性被害にあった人は笑ったりしない」
— シゲ (@monadpride) 2019年12月19日
・性被害者はそれらしく憔悴してみせろ
・貧困者は貧困者らしくみすぼらしくあれ
・同性愛者は日陰者の自覚をして堂々とするな
これらは加害/支配側でありたい欲望を持つ人間の台詞。
相手を対等と見做していない。見下している。 pic.twitter.com/GhFMPoMp9Q
発言書き起こし
「この、所詮、所詮と言うとアレですけど、民事でどういうことがでようとこれ、刑事事件で犯罪者かどうかという結論は既に日本の法システム上完了していることはみなさんご存じの通り」
「本当に性被害に遭った方は、伊藤さんが本当のことを言っていない、それから、例えば、こういう記者会見の場で笑ったり上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることはないと絶対にないと証言してくださったんですね」
その他、以下のようなやりとりも。
0:40頃から
記者「山口さんが、まぁ当時就職活動をしていた就活生である伊藤詩織さんと、山口さんが主張されるように合意があったとしても、性行為をするというのは適切だと思いますか」
山口氏「その道義的な部分については、私は犯罪者かどうかということで今戦っていますので、私は意に反した性行為は一切していないということを主張しています。ただ、あえて言えば、私は適切ではなかったと思っています。これでいいですか。」
1:28頃から
記者「なぜ適切ではないと」
山口氏「道義的な部分を、ここで掘り下げられてもお答えしません。私の、犯罪ではない行動をあなたに詳細に謝罪する気もないし、ここで弁明する気もないですね。」
この会見については、以下のような報道もなされているのでまとめておく。
https://archive.vn/mB43L#selection-244.1-257.29
事件が明るみに出てから山口氏はメディアの取材に応じず、「月刊Hanada」への手記寄稿とネット番組で反論したのみ。訴訟に集中すべきとの弁護士の指導を守ってきたというが、今回の“全面敗訴”を受け「2年間沈黙している間に国内外で伊藤さんの主張だけが載せられた。判決に何かしらの影響を与えたのではないか」として、ようやく会見を開いた。
法廷外では逮捕状の執行が停止となった背景に安倍晋三首相と近いTBSのエース記者だった山口氏が便宜を求めたか、警視庁や官邸、司法当局による配慮があったのではないかと注目された。山口氏は「政治記者として恥ずかしいが、中村氏と会ったこともない。そもそも逮捕状が出ていたことすらも知らないのにもみ消しを頼むことができるのか」と否定。2年前、山口氏が警察官僚出身の内閣情報官・北村滋氏(現国家安全保障局長)にメール送信した疑惑も持たれたが「北村さんは面識はあるが、この件で一切のメールもあらゆる相談もしていない」と強調した。さらに山口氏は「伊藤さんは容疑者」と衝撃発言し、会見場をざわつかせた。今後は、性暴力を受けた際に膝を脱臼したという伊藤氏が大股で歩いているホテルの防犯カメラ映像の公開や、定期的に記者会見を開き、身の潔白を訴えていくという。
また、山口さんはこれまでのメディア報道が、判決について与えた影響について懸念を示した。
「私は今まで、伊藤さんが一昨年、会見をして以降、会見を一切してきませんでした。なぜかというと、訴訟に集中すべきだという北口弁護士のご助言があったからです。
しかし、今回の判決については、一方的に伊藤さんの主張だけが根拠なく事実認定されてしまった。私が2年間、沈黙している間に、ニューヨークタイムズやBBCなどが海外でも一方的に伊藤さんの主張を報道されました。
こうした報道が判決に影響したのでないかと残念に思っています。沈黙がマイナスの判決につながった可能性が否定できない。今後は取材も受けますし、情報もご提供していくので、フェアな報道をしていただきたい」
また、山口さんは、名誉毀損だとして慰謝料など1億3000万円や謝罪広告を求めて反訴していたが、「公共性および公益目的がある」として棄却されたことについても、控訴すると明かした。
2019年12月19日 日本外国特派員協会会見
翌日開かれた会見で、「本当の被害者は笑わない」発言への質問が飛び出しました。
江川紹子さんによる質問 45:00頃から
「昨日の記者会見で、山口さんが、本当のレイプの被害者であれば、あんなふうに笑ったりしないというふうに仰ったというふうに報じられています。山口さんがお考えになるレイプの被害者がふつう採るべき態度というのはどういうものだと思ってらっしゃるのか」
山口さんの回答 49:00頃
「No,no,no,no. Still I have.江川さんの質問は非常に不正確なんですね。私は、性犯罪被害に遭った人が笑ったりしないとか、幸せそうにしないという発言を一切していません。会見を確認してください。(江川さんの何かしらの発言に対して)まだしゃべってるので、いいですか。それに類する、そういう誤解を江川さんがしたとすれば、昨日の記者会見では、私の所に、性犯罪被害を受けたという女性の方からご連絡を頂いたと。その方が、私に、ご本人が性犯罪被害者ですので、ご本人として、本当に被害を受けた人の表情や行動について、私にご説明くださったと。そのくだりについて、類似の説明をしましたが、私が性犯罪被害者がこういう行動をするかどうか、私は全く知らないので、それについて私は申し上げていませんので、是非そこは訂正してください。」
江川さんの再質問 51:00頃
「なぜそこをわざわざ引用なさったんですか?」
山口さんの再返答
「私が記者会見でどこを引用するかどうかを、江川さんにご指示や批判される筋合いはありませんね」
江川さんの発言
「理由を伺ってるだけです」
山口氏は前日の会見での自身の発言について問われ、「引用しただけ。なぜ引用したかを説明する必要はない」と返答しています。返答というか、なんというか、、逆ギレ?山口氏のこのような態度については、以下の記事で小川たまかさんにより詳述されています。
山口氏発言への批判
山口氏のこの発言については色々な批判が寄せられています。
まず、赤木智弘氏による批判。赤木氏らしく皮肉に富んだもの。
さて、不思議なのだが「本当の被害者であれば、あんなことをしない」というならば、なぜ、女性に「性的被害をでっち上げられた被害者」であると主張しているはずの山口氏は、メソメソ泣いて会見をしていないのだろうか?
信頼して一緒に酒を飲んで、更に倒れたところを介抱してあげて、更には愛し合ったにもかかわらず、後からさもレイプ犯であるかのように主張されたとしたら、僕なら裏切られたことが悲しくて、毎日枕を濡らして過ごすことになるだろう。
ところが、山口氏は涙の跡一つもなく会見に挑んでいる。山口氏の主張が本当なら、被害者である山口氏自身があのような、良く言えば堂々とした、悪く言えばふてぶてしい態度でいられるはずがないのである。
彼は本当に被害者なのだろうか? 僕には山口氏が本当の被害者であるとは思えないのだ。
と、当てつけのような解釈をしてみたが、このような「被害者らしくない態度だから、その人は本当の被害者ではないだろう」という批判は、どのようにでも作り出すことができるし、なんとでも言い換えることができる。
山口氏は「記者会見で笑った」ということを本当の被害者ではない理由として述べたが、これと同じように、もし被害者が泣いていれば「涙で同情を誘おうとしている!」と言い換えることができる。
他にも怒っていれば「冷静な状態ではないから不愉快。誰も感情的な人の話など聞こうとしない」。そして冷静でいれば「どうして被害に遭ったのに冷静でいられるのか?」と、いくらでも「本当の被害者ではないという証拠」を被害者の態度から「創作」することができるのである。
次に、小田嶋隆氏。
えーと、これはつまり、「本当に性被害に遭った女性は、笑顔や表情の豊かさを失っていて、人前にも出られないはずだ。してみると、事件後、テレビに出る勇気を示し、時には笑顔を見せることさえある詩織さんは、性被害に遭った女性とはいえない」という理屈なのか? 加害者がこれを言うのか? https://t.co/CD7Yf5ZlsP
— 小田嶋隆 (@tako_ashi) 2019年12月18日
「水に沈めて浮いてきたら魔女確定。無実なのは沈んだまま浮いてこなかった女だけ」みたいな話だぞこれ。
— 小田嶋隆 (@tako_ashi) 2019年12月18日
↑このように、自身によるツイートを紹介したのち、山口氏の当該発言について以下のように解説。
それにしても、山口氏はいったい何を考えてあんな言葉を発したのだろうと思って、彼の真意を確認するために、1時間半ほどの会見映像を一通り視聴してみた。
(略)
視聴の結果をお知らせする。
(略)心底からうんざりしたのだね、私は。(略)「こんな人たちの相手はたくさんだ」という自分の気持ちに正直に従うなら、私は現時点で、すでに作業を投げ出しているはずなのだ。
(略)
伊藤さんは、私がいま耐えている不快感と比べて、おそらく数百倍もキツい精神的な重圧と闘いながら、この何年間かを過ごしてきたはずだ。それを思えば、60歳を過ぎたすれっからしの前期高齢者である私が、この程度のことで上品ぶって仕事を投げ出すわけにはいかない。
「本物の性被害者たちは、伊藤さんを本物の性被害者として認めない」という、このどうにも卑劣極まりない立論は、その構造の中で、「性被害者」を極限まで貶めている。というのも、この理屈を敷衍すると、性被害者は、自分自身が性被害から一生涯立ち直れないことを自らに向けて宣言していることになるからだ。
山口氏の証言は、前段のタイラ氏の証言を核心部分をなぞるカタチのものだ。
(略)
- 伊藤さんは性犯罪被害者ではありません。
- 伊藤さんのように必要のないうそ、それから本質的なうそをつく人が、性犯罪被害者だと言って、うその主張で出てきたことによって、さっきタイラさんの話にもありましたが、私のところにも、性犯罪の本当の性被害者であると言って出てきたことによって……(以下やや混乱しているので省略します)
- 本当に性被害に遭った方は、伊藤さんが本当のことを言っていない……それから、たとえば、こういう記者会見の場で笑ったり、上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは、絶対にないと証言してくださった。
- 本当の性被害に遭った「#Me Too」の方が、うそつきだと言われるといって、出られなくなっているのだとすれば、これは残念なことだなあ、と。
あえて感想を述べるなら、「論外」の二文字に尽きる。
ともあれ、山口氏は、世間の空気を読みそこねた。
原因はご自身が閉鎖環境の中で暮らしていたからだと思う。つまり、山口氏はあまりにも自分と似た考え方の仲間に囲まれて暮らしていたがために、自分の考えの異常さに気づくことができなかった。
お仲間たちも、せっかく擁護のためにセッティングした記者会見の中で本人が持ち出す論陣の非常識さを事前にチェックすることができなかった。
このように重層的な批判を行っておられます。私も会見動画を視聴しながら、「あぁ、この人達は勝訴を1ミリも疑っていなかったのだろうな。」という感想を持ったので、小田嶋氏の批判には強く頷くところです。
最後に、小川たまか氏。
「私自身も被害当事者で長く苦しい思いをしていたときは、前に出る人がすごく輝いて見えたりとか、私にはそういうことはできないと思っていたことがあるので、そういうふうに思う方がいるというのはわかります。
ただ、そういうその人の言葉、気持ちを使って、そうであるから被害者ではないというのは二次加害です。そういうことを使って、伊藤詩織さんの被害者としての信用性を貶めるようなことをするのは、私たちすべての被害当事者に対する侮辱ではないかと思っています」(一般社団法人Spring代表・山本潤さん)
山口さんは「本当の被害者」という言葉を繰り返した。性暴力の被害者が、疑われたりバッシングを受けたり、「本当の被害者ではない」と言われるのは珍しいことではない。だからこそ「セカンドレイプ(二次被害/二次加害)」という言葉がある。
被害後に被害者がどのような行動をするのかは人それぞれだ。学校や職場に通えなくなることもあれば、「何もなかったと思いたい」という気持ちからそれまで通りの日常を送ろうと努めることもある。被害前後の言動から、誰が本当の被害者で誰がそうではないかを言い立てるのは典型的なセカンドレイプであり、たとえ被害当事者の口からであっても繰り返されてはならないことだ。(強調は小川たまか氏、下線は引用者による)
(略)
今後、山口さんはこれまで控えていた公での発信を積極的に行っていく意向だというが、今回のようにセカンドレイプにあたる発言を繰り返すのであれば信用を取り戻すことにはつながらないだろう。
被害者の持つ複雑な心情に触れた上で、それでも被害前後の言動から本当の被害者判定をすることはあってはならない、と論じています。
再捜査はありうる
ちなみに、山口氏が18日会見で
「この、所詮、所詮と言うとアレですけど、民事でどういうことがでようとこれ、刑事事件で犯罪者かどうかという結論は既に日本の法システム上完了していることはみなさんご存じの通り」
と述べたことについて、若干の補足を。
元・特捜部主任検事の方による記事。
民事裁判の過程で新たな証拠や事実が判明したとしても、なお検察は捜査や起訴を行うことができないのか。
実は、検察審査会の審査とは無関係に、不起訴処分後、検察はいつでも独自の判断で再捜査を始めることができることになっている。
不起訴と聞くと、それで完全に終結し、二度と捜査が行われなくなると思うかもしれない。
基本的にはそのとおりだが、検察には「再起」と呼ばれる制度がある。
いったん不起訴にしたり、捜査を中断したものの、その後の事情の変化を踏まえ、再び起訴に向けた捜査に着手するというものだ。
関係者から核心を揺るがすような証言が新たに出てきたとか、未発見だった重要な証拠物が発見されたといったような場合には、事情の変化があったということで、再捜査を行うことになる。
その場合、伊藤さんの側から検察に対して資料を提出し、再捜査を促すことも可能だ。
(略)
ただ、当事者の主張が激しく対立している事件であり、少なくとも民事裁判で最終的な結論が出るまでは、検察が動くことなど考えにくいのも確かだ。
と、刑事司法のプロセスが完全に終わったわけではないという解説がなされています。