ブログの新たなシリーズとして、伊藤詩織さんに対して批判的な言説について所感を述べていきます。伊藤さんの意志を汲み、できるだけポジティブな言葉を使います。第1回目はlisanha氏のブログから「伊藤詩織氏は、ロビーを通って帰っていない」エントリを取り上げます。
当該エントリの要点は以下のとおり。
1.伊藤さんは事件後、メインエントランスではなく脇にある小さな出口から外に出ている。
2小さい出入り口なので、かなり冷静であったことがうかがわれる。
3.伊藤さんは「ブラックボックス」では「綺麗なホテルのロビーを足早に横切るのが精一杯だった」と述べているが、彼女はロビーではなくフロント前しか通っていない。
4.伊藤さんは出口を出たあと直線的に動いておらず、彼女が冷静であったことを示す。
5.伊藤さんの帰路にはいくつもの交番や警察署があったがなぜかスルーした。
では一つずつ見ていきましょう。
1.伊藤さんは事件後、メインエントランスではなく脇にある小さな出口から外に出ている
これはその通りのようです。よく観察されているなと感じます。
2小さい出入り口なので、かなり冷静であったことがうかがわれる。
彼女はロビーには行かず、脇にある小さな出口から出ます。
しかしですね、この出口確かにフロントから一直線なのですが、
小さくて見つけにくいんですよ。中からだと一発では難しい。
普通はロビーを探して出ますからね。
なぜこんな小さな出入り口を見つけられたのでしょうか?かなり冷静だということがわかります。赤線が経路になります。
図にある小さい出口から出たということですが、おそらくこれはホテルと目黒駅・品川駅を結ぶシャトルバス利用者用の出入り口だと思われます。
この出入り口を使ったから「かなり冷静だった」とまで主張できるかは微妙と感じます。人目を避けたい心理から、メインエントランスではなく小さな出入り口を選ぶ心理が働いた可能性もありますので。フロント側からこの出入り口を撮影した写真を探したのですが、見つかりませんでした。元投稿主さんは現地を訪れたらしいので、やがてアップしていただけるといいかなと思います。コメント欄でおしえて頂いたのですが、google street viewでフロントデスクから「出入り口」方面を見たときの映像を確認できました。こちらです。
「小さくて見えづらい」とは言いづらい上に、 非常口誘導灯がありますので午前5時台にはさらに目立ち、フロント方面から最初の「出入り口」として認識されたことでしょう。カーテンがおりていてメインエントランス方面の視界は遮られていますしね。というわけで、むしろこの出口から出る方が自然ではないでしょうか。
3.伊藤さんは「綺麗なホテルのロビーを足早に横切るのが精一杯だった」と述べているが、彼女はロビーではなくフロント前しか通っていない
伊藤さんは確かに著書「BlackBox」で「綺麗なホテルのロビーを、足早に横切るのが精一杯だった」と書いています。確かに、先ほどの見取り図で「ロビー lobby」と記載のある部分を通ってはいませんが、伊藤さんはフロントデスク前の廊下部分をロビーと表現したのかもしれません。
4.伊藤さんは出口を出たあと直線的に動いておらず、彼女が冷静であったことを示す。
彼女は犯罪被害に遭ったわけですよね?それが本当だとすると通常は直線的に動きますよ人間は。
恐怖や混乱があるとルンバみたいに動くんですよ。
曲がるっていうのは壁にぶつからないとしないんです。
ということは、もし恐怖や混乱がこの時にあるなら、出口から真っすぐ道路(目黒通り)に出るはずなんです。
それが曲がって曲がって出て行った・・・。
しかもスマホ歩きで。
驚くほど冷静に動いていることがわかります。歩き方も余裕です。
まるで、都ホテルのことをよく知ってるかのように。(BBには一度宿泊経験があるとのこと)
「恐怖や混乱の状態にある人間はルンバみたいに直線的に動き、壁にぶつからないと曲がらない」 という主張は興味深く感じました。手近なところで、google scholarで「恐怖」「歩行」で検索してみたところ、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjasnaoe1968/1999/186/1999_186_545/_pdf/-char/en
「緊急時の心理過程と歩行モデルによる避難行動の解析」という、平成11年「日本造船学会論文集」の論文がヒットしました。船舶や海洋構造物における重大事故時を考慮した設計を考える論文のようです。ざっと斜め読みしたところ、「避難者は沈没の恐怖や煙から逃れるために目的地に向けて素早く直線的に移動する」という旨の事が書いてありました。これはlisanha氏の主張と一致する部分です。しかし今回のケースは、例えば山口氏が後ろから追いかけてきているほどの切迫した状況ではないので、この論文の記載をそのまま適用できるとは言えないと感じました。ここは、氏による解説が望まれます。
また、同じ場所をgoogle mapで見ると
こんな感じです。緑色は事件時にバスが止まっていた位置。私には、まさにルンバのようにバスに視界を遮られて右折しただけにも見えます。
5.伊藤さんの帰路にはいくつもの交番や警察署があったがスルーした。
なんでこんなに助けを求める場所をスルーするんでしょうか?
lisanhaさんはこのように疑問を呈しておられるので、客観的データをもとにお答えします。
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h29danjokan-gaiyo.pdf
男女間における暴力に関する調査報告書(内閣府男女共同参画局作成)平成30年版によれば、「無理矢理に性交等された被害の相談先」として、「警察に連絡・相談した」と回答した女性(回答者141人)は2.8%で、「どこにも相談しなかった」のは58.9%。(上記pdf 14頁)
そのうち、「どこにも相談しなかった理由(複数回答)」は、「恥ずかしくてだれにも言えなかった」が55.4%、「自分さえ我慢すればなんとかこのままやっていけると思った」が27.7%、「そのことについて思い出したくなかった」24.1%、「相談するほどのことではないと思った」20.5%、「どこに相談してよいのかわからなかった」が16.9%。(上記pdf15頁)
本件の場合、「恥ずかしくて誰にも言えなかった」「自分さえ我慢すればなんとかこのままやっていけると思った」「そのことについて思い出したくなかった」「どこに相談してよいのかわからなかった」「他人に知られると、これまで通りの付き合いが出来なくなると思った」「仕返しが怖かった」などが当てはまるかもしれないと感じました。
まとめます。
1.伊藤さんは事件後、メインエントランスではなく脇にある小さな出口から外に出ている。
→その通り。
2小さい出入り口なので、かなり冷静であったことがうかがわれる。
→この出入り口はシャトルバス用出入り口で、非常口誘導灯もありそれなりに目立ち、フロント方面から歩く場合に最初に認識される出入り口。事件後にこちらの出入り口を使うことに何ら不思議はない。
3.伊藤さんは「ブラックボックス」では「綺麗なホテルのロビーを足早に横切るのが精一杯だった」と述べているが、彼女はロビーではなくフロント前しか通っていない。
→フロントデスク前の廊下のことをロビーと表現しても不思議はない。
4.伊藤さんは出口を出たあと直線的に動いておらず、彼女が冷静であったことを示す。
→山口さんが後ろから追いかけてきているわけではない。又、バスに視界を遮られてルンバのように曲がった可能性がある。
5.伊藤さんの帰路にはいくつもの交番や警察署があったがなぜかスルーした。
→真の被害者でもスルーする方が多数派である。