伊藤詩織さん民事訴訟を応援するブログ

伊藤詩織さんの民事訴訟について、裁判資料や報道を元に検証します。伊藤さんを不当に貶める言説に触れてしまった人の心を癒やせる内容になるよう頑張ります。「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」とは関係なくやっておりますので、内容について同会への問い合わせなどはお控えください。

伊藤詩織氏・山口敬之氏の民事訴訟における飲酒量と酩酊症状の検討


 

概要 

 

背景  伊藤詩織氏(以下原告)と山口敬之氏(以下被告)の民事訴訟の重要な争点の一つに、原告・被告双方の主張する事件時の原告飲酒量の差異と、デートレイプドラッグ使用の有無があるが、地裁判決では明確な判断は下されていない。

方法 原告・被告双方が主張する飲酒量と店舗滞在時間から、Widmark法を用いて事件時の原告の血中アルコール濃度を計算し、原告の酔い具合と付き合わせることで、いずれの主張がより確からしいか検討を行った。

結果 原告の主張する事件時の飲酒量(アルコール 113ml)は、原告が「全く平気である」とする飲酒量(135ml)をやや下回っており、事件時に見られた強度酩酊や記憶喪失を説明できなかった。被告の主張する飲酒量(311ml)では、ホテル到着時の強度酩酊状態は説明できるものの、午前2時に完全に覚醒したという被告の供述と矛盾した。これは、ホテル到着後の嘔吐の影響を加味しても同様の結果であった。

結論 双方が主張する飲酒量では原告に生じた症状を説明することができなかった。事件時に原告に睡眠薬が投与された可能性についてさらなる検討が必要である。

 

 

 

 伊藤さんと山口さんの民事訴訟での大きな争点の一つに、事件当日の伊藤さんの飲酒量、およびデートレイプドラッグ使用の有無があります。2019年12月18日の地裁判決では、伊藤さんの主張する飲酒量を認定したもののデートレイプドラッグ利用の有無について、判断は避けられているようです。これは、ドラッグ利用の確証がない(尿・血液・毛髪検査が行われておらず、薬物を混入させた様子を証言するものもいない)ことから、原告が提出した証拠(甲23号証の1:山口大学藤宮教授による意見書)においても、「伊藤さんの主張する飲酒量でアルコール性健忘が起こりうる」と主張されていたことと関係があると考えられます。

 筆者は、BlackBoxの記述および山口さんの供述、アルコールや睡眠薬の薬理学的作用などを考慮すると、本件において伊藤さんになんらかの薬物が投与された可能性が高いと考えています。そこで本エントリでは、伊藤さん・山口さん双方の主張する飲酒量では、事件当日に起こった伊藤さんの酩酊症状の説明ができないことを論じます。

 

1軒め 「まくら とよかつ」

まず、「とよかつ」。恵比寿駅西口から歩いてすぐの串焼き屋さんです。なお、本エントリで利用した両店舗の写真はすべて食べログからの引用です。

 

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名物は「まくら」。ひき肉つくねの周りにニラを巻いて焼いたもの、とのこと。

 

 

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 ビール。恵比寿のお店なので、銘柄は親会社のサッポロなのでしょうか。グラスは小さめなので1杯150mlとして計算します。

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 こちらも「とよかつ」名物のしそサワー。「とってもお酒が濃いです」と表現した方がいる(https://note.com/mo36/n/na8913cf60073)ため、度数は10%、量は氷が多く見えるため200mlとして計算します。

 

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 話題の「一升瓶ワイン」。度数は12.5%とのことですが、今回は便宜上12%として計算します。グラスは通常のものより小さいようで、1杯100mlとして計算します。「伊藤さんがワインならたくさん飲むというので」山口さんが注文したようです。通常ワインボトルは750mlですが、山梨県などのワイン産地地元では、一升瓶サイズのワインがよく流通しているとのことです。

 

 

2軒目「鮨 喜一」 

 恵比寿駅西口から250mの「鮨 喜一」。夜のコースは9900円からスタートで、寿司という業態や立地を考えると高額店というわけではないようです。

 

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 山口さんによれば、この最も奥の予約席に座ったとのこと。「就職を前提とした面談」に使うにはスペースが狭いですし、隣の客にも会話が丸聞こえですから、若干違和感はあります。

 

 

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日本酒はこの徳利で一合ずつ提供。

 

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 グラスもおしゃれですね。

 

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 「太巻き」です。見た目にも上品でおいしそうなのですが、この日、握りのコースは頼まなかったようです。金曜日の20時に予約したわりには、若干奇妙ではありますね。

 

 

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  黄色部分がとよかつの滞在、青色部分が喜一の滞在を示します。

 伊藤氏は、とよかつに20時から21時40分頃まで滞在、その後歩いて5分ほどの喜一に移動し、1時間ほどで気を失ったと説明しています。BlackBoxKindle版No414)において、とよかつでは「ビールをコップ2杯、ワインを1-2杯」飲んだと記載しており、しそサワーには言及がありませんでした。しかし、北原みのり氏の口頭弁論傍聴記(https://www.opentheblackbox.jp/blank-2)によると「しそサワーを飲んだ」と述べているようです。量については言及が無かったのですが、ここでは1杯と仮定します。ワインについては1-2杯とありましたが、多めにとって2杯とします。喜一での日本酒については、2合飲み、3合目を頼んだが飲んだ記憶ははっきりしないとのことで、2合とします。

  山口氏は、とよかつで伊藤さんと合流したのは19時で、喜一には20時に移動したと主張しています。2018年11月12日提出の被告陳述書(2)によれば、「私と伊藤氏は、立て続けに2人でビール大瓶2本と、サワーをおのおの2杯ずつ」飲みました。ワインについては、2019年7月8日の口頭弁論

https://www.bengo4.com/c_18/n_9885/

で「おかみさんは(伊藤さんが)5-6杯飲んでいたと証言した」と山口さんが述べています。今回は5杯として計算しました。喜一での日本酒の量についても、喜一の主人の証言という形で「7-8合は飲んだ」と主張していましたので、ここでは7合として計算します。

  なお、伊藤さんは「酔って記憶をなくした経験は一度もありません。普段は2人でワインボトル3本空けてもまったく平気でいられる私が仕事の席で記憶をなくすほど飲むというのは絶対ない。だから、私は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたんだと思っています。」と主張しています。https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/dailyshincho/nation/dailyshincho-598762

  そこで、参考のため伊藤さんが「ワイン1.5本を3時間で飲んだ」場合についても検討を行うこととしました。

 

 

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 ここまでの議論をまとめると表2の通りとなります。酒量、アルコール量ともに単位はmlです。

 

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 次に、血中アルコール濃度を計算するに当たって、諸々の条件設定を行います。摂取したアルコールは20時に開始、3時間かけて均等の速度で吸収が進み、23時に血液への移行が完了したという仮定をおきます。アルコールが血液へ移行完了するまでの時間を1時間強程度としたのは、「飲酒後の血中濃度ピークは30分~2時間」であり、「空腹時に飲酒をすると、(中略)アルコールの吸収が早くなる」からです。

(参考:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-002.html) 

 

 また、「伊藤さんが2時に完全に覚醒したのはホテルでの嘔吐により酔いが覚めたからではないか」という主張が一部に見られることから、「嘔吐により23時に血中へのアルコール移行がストップした場合」についても検討します。

 ちなみに、この条件でも

  1. 嘔吐したタイミングを実際(客室に入った後の23時30分以降)より早く23時と仮定している
  2. 胃を通過し小腸に移動したアルコールも全て嘔吐したことになる

 ため、嘔吐の効果を実際より過大評価していることに留意が必要です。

 

 当然ながら、すでに血液へ移行したアルコールは嘔吐しても影響を受けません。「そんなことはない、私はどれだけ飲んでも嘔吐すると酔いが覚める」という方は、おそらく大量吐血を繰り返しておられるのだと思いますので、早急に酒量を減らすよう強くお勧めいたします。

 

計算にはこのサイトを利用しました。

http://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/SmartJitutomo/widmark.html

 その他の仮定は以下の通りです。

  1. 伊藤さんの体重は50kgと設定
  2. 肝臓でのアルコール分解は飲酒直後から開始される
  3. 分解速度は、上記サイトで設定可能なうち最も速い、1時間あたり19mg/dlとする

  

  

計算結果

 

図1

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  結果を図1に示します。図の解釈に入る前に、血中アルコール濃度と症状の関係について簡単に論じます。

 

 

表4 血中アルコール濃度と酩酊症状の関係

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 表4もhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-003.htmlからの引用です。 150-250mg/dlでの「失調性歩行」「悪心」というのは日常用語で言う「千鳥足」「吐き気・嘔吐」のことです。

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/21/3/21_498/_pdf/-char/ja

 なお、この論文では血中濃度と酩酊症状の強い相関はないと主張されているのですが、血中濃度400mg/dlを越えるケースは、虎ノ門病院を受診する急性アルコール中毒の患者さんで上位1.9%に入るとのことです。

 

 

 

 

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 次に、事件当日の伊藤さんの行動・様子について検討します。ポイントは以下の3点です。

  1. 1軒目から移動する時点では酔いは強くない
  2. 22時40分頃から23時30分頃にかけて急速に酔いが進行している
  3. 午前2時には完全に酔いが覚めたように見える(山口氏主張)

 

 

 

図2

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 図1に表4,表5の情報をくわえ図2とし、得られた計算結果についての解釈を行っていきます。まず、「伊藤平気量」の血中濃度ピークは200mg/dl程度ですが、伊藤さんはこの量の飲酒を行っても「平気」であるとのことですから、やはり伊藤さんは「酒に強い」体質であると言えそうです。そして、「伊藤主張量」の血中濃度ピークは「伊藤平気量」を下回っており、表5の鮨屋からホテルで見られたような強度の酩酊症状や記憶喪失を説明できません。しかし、朝5時の覚醒や性行為の時点では、ある程度アルコールは残っているかもしれませんが、ほぼ問題ないレベルまで回復しており、事実を説明可能です。

 次に、「山口主張量」では、とよかつ滞在中から自立歩行不可能なレベルに達しており、しかも命に関わるレベルの血中濃度寿司店滞在中から翌朝8時以降も持続しており、率直に言ってまともに検討する代物ではありません。また、嘔吐の影響は極めて限定的で、まともに検討する代物ではないという結果を何ら左右しません。また、一部には「伊藤さんは元キャバ嬢だから『とよかつ』でも吐きながら飲み続けたに違いない」などと主張する狂信的山口氏擁護派が実在する人のですが、2017年10月27日のyoutube動画「 月刊Hanada編集長の『週刊誌欠席裁判』 」で、山口氏は「一件目は、あまりお勧めできないトイレなんで、そこでは行ってないです」と述べています。ちなみに、この動画は、どういうわけかyoutubeの月間hanadaチャンネルから削除されており視聴できないのですが、動画の全文書き起こしおよび動画そのものをネット上で発見しましたのでご紹介いたします。

書き起こし

https://sblackbox.wordpress.com/2017/12/01/yamaguchi-noriyuki-no-hanron1/

動画

http://m.pandora.tv/?c=view&ch_userid=cdma2000&prgid=56982145&ref=msearch 22:30頃から該当部分。

 

 このように、両者の主張する酒量では事件当日の伊藤さんの酩酊症状を説明できません。この日、伊藤さんは日中、靖国神社で行われた奉納相撲の取材を朝から行っていたとのことで、普段より酔いが回りやすかったのかもしれませんが、それでも2時の時点で「完全に覚めた」と言えるほど覚醒したことは説明がつきません。

 

https://www.afpbb.com/articles/-/3044519 

(2015年4月3日の靖国神社奉納相撲。AFPによる報道写真)

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結論

・山口さんの主張する酒量では死亡リスクすらある上、ホテルでの嘔吐を考慮しても「2時に完全覚醒」や翌日伊藤さんに二日酔い症状が見られなかった点を説明できない

・伊藤さんの主張する酒量は、「普段なら全く平気」な酒量を下回っている。事件当日のような「泥酔状態」になることの説明ができない。

 

考察

  飲酒だけでは伊藤さんに起こった症状に説明が付かないため、筆者は睡眠薬が使用された可能性を疑っていましたが、本エントリの執筆によりさらに確信が深まりました。次のエントリでは、「入手方法」「予約席」「投与方法」「作用時間」「アルコールとの併用」「健忘作用」「筋弛緩作用」などの観点から薬物投与の可能性について論じます。

 

 なお、本エントリでは便宜上「山口主張量」と記載しましたが、訴訟において山口氏は「伊藤さんの酒量は自分が直接見たわけではなく、とよかつのおかみさんや寿司店の店主がそう証言している」というような表現をしており、この点も筆者が山口氏の主張を疑っている根拠の一つとなっています。